兼任から専任のひとり情シスへ
昨今、コロナ禍に対応したテレワーク環境の構築や事業継続計画(BCP)のためのデータ保護/バックアップなど、ひとり情シスの役割が拡大しています。ひとり情シス協会が実施した「中堅企業IT投資動向調査2022年」「ひとり情シス実態調査」では、専任の情シスがいない企業の27%が新たにひとり情シスを任命したという結果が出ています。
中堅中小企業でIT化・デジタル化を強化する傾向が顕著になっており、特に2022年4月の人事異動で新任のひとり情シスが多く誕生しています。ひとり情シスを脱して複数人体制になるケースも増えていますが、採用を計画しても思うように人を確保できない企業もあるようです。
他のひとり情シスの仕事ぶりを知りたい
望むか望まないかに関わらず、ひとり情シスになったからには、他の人たちがどのように仕事を進めているのか参考にしたいと思うでしょう。しかし、ひとり情シスの実情はなかなか表に出てきません。ひとり情シス歴の長いベテランたちであっても、他社の状況は意外と知らないもので、話を聞きたいという声を耳にします。
そこで、ひとり情シス協会では、さまざまな経歴を持つひとり情シス経験者10人に直接取材し、直面した課題やその解決策などを伝記にまとめることにしました。ご協力いただいた方々には、ひとり情シスとして悩んでいる時に「こんな情報があればよかったのに」という観点で振り返ってもらいました。2022年2月に同人誌として「ひとり情シス列伝」を出版し、無償配布を開始しました。
ナラティブアプローチを目指した内容
ひとり情シス列伝では、10人のひとり情シス経験者について、ひとり情シスに至った経緯、直面した問題、成功・失敗体験など48の経験談をまとめています。さらに、現在、ひとり情シスとして悩んでいる方に向けて79のアドバイスを加えた、280ページの書籍となっています。
アドバイスのテーマとしては、次のように、ひとり情シスが避けて通れない課題に対して、実体験をもとに助言しています。
- 経営層とのコミュニケーション
- 自分の評価をアピールするには
- 二人目の採用の経験談
- 冷遇される職場での挑戦
- 予算獲得への道筋
- ITインフラを刷新する
- 最適なパートナーを見つける
- セカンドチャレンジとして
- 副業への警鐘
ひとり情シスにさまざまなタイプがあるのと同じように、各人の個性や人柄によって課題に対して取り組むアクションも異なります。10人のひとり情シスの生い立ちや考え方などパーソナルな部分も含めることで、より立体的に描いています。
「ナラティブアプローチ」とは、相談相手などを支援する際に、相手の語る「物語(narrative)」を通して解決法を見出していくアプローチ方法です。そして相手から自身へ「物語の主人公を変更」して問題との関わり方を考えていきます。10人の境遇に合わせて自身の取るべき行動を投影することで、今後の不測の事態に対応する準備になることと思います。
また、ITベンダーに勤務する方がキャリアチェンジでひとり情シスに転職されることも昨今とても多くなっています。ひとり情シス列伝で紹介している10人のうち7人はITベンダー出身です。中堅中小企業のIT人材不足を考えると、とても重要なことです。「ひとり情シス列伝」を見ていただくと、どういった環境か分かると思いますので、関心がありましたらぜひご一読をお願いします。
- 清水博(しみず・ひろし)
- 一般社団法人 ひとり情シス協会
- 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年定年退職後、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。「ひとり情シス」(東洋経済新報社)、「ひとり情シス列伝」(ひとり情シス協会出版)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。産学連携として、近畿大学CIO養成講座、関西学院大学ミニMBAコース、大阪府工業協会ひとり情シス大学1日コースを主宰。