連絡が取れなくなったひとり情シス
セミナーでお会いしたり、連絡をいただいたりするひとり情シスの方と少しお話してみると、彼らのほとんどはITプロフェッショナルレベルだと分かります。元ITベンダーで豊富な経験がある転職組のひとり情シスな方々はフルスタックエンジニアにかなり近く、ITのリテラシーが極めて高い「スーパーひとり情シス」です。困っているひとり情シスの方からの連絡よりも、困っているひとり情シスを支援したいと連絡くださる方のほうが多いです。
そのような方々は経営層にも信頼され、スマートに仕事をこなしているように感じられる一方、「本当に困っているひとり情シスの方はいるのかな?」と思うことがあります。しかし、ごくまれにセミナー会場でひとり情シスになって間もない方にお会いすることもあります。そういった方はIT経験が乏しいにもかかわらず、ある日突然、別の部署からひとり情シスに任命され、システム運用の現場に投入された状態です。
任命されたばかりのひとり情シスの方とお話する機会がありました。その方は言葉が少ないながらもジェントルな雰囲気でしたが、疲弊している様子がうかがえました。ある日突然、自分が経験したことのない職場に異動させられて、その日からITに関する問い合わせに追い立てられることを考えてみると、その方の状況をイメージしやすいと思います。
1年後に同じ場所でセミナーを行うときは、その方との再会を楽しみにしていましたが、残念ながら来場されませんでした。心配で調べてみると、その方は既に退職されていて、別の方が情シスの担当になっていました。退職理由は分かりませんが、いろいろな苦労があったと想像できます。
ひとり情シスの職場環境の調査
ひとり情シスを「過酷でブラックな環境だ」「経営者の責任問題だ」とあおるITベンダーのプロモーションを目にします。決して全体に当てはまる話ではないので、このように喧伝されるのに対して健全にITを運用しているひとり情シスや経営者は落胆しています。そこで、ひとり情シス・ワーキンググループが2020年12月実施した「ひとり情シス実態調査」と「中堅企業IT投資動向調査」では事実関係を調べました。
職場環境を知る質問項目として、「仕事内容に満足していない」「現状の仕事内容に見合った給料を得ていない」「モチベーションが低い」の3項目を設定しました。実際にはこれら3項目全てに満足することは少なく、「モチベーションは普通だか給料は高い」「給料は少し不満だか仕事内容は自身のスキル向上が実現できる」などが多いものと思われます。
しかし3項目の全てに該当するとなると、「ブラック企業」と同等レベルに感じ、会社に行きたくなくなっても不思議ではないでしょう。原因が会社のITへの理解不足なのか、本人のテクニカルスキルやヒューマンスキルの不足なのかは判断できませんが、3項目全てに該当するひとり情シスは24.8%もいました。実にひとり情シスの4分の1は悲惨な状況にあるという実態が明らかになったのです。
現在はコロナ禍にあり、情シスの方は全体的に忙しくなっています。ひとり情シスであれば、さらに多忙を極めている恐れがあります。もしこの記事を経営層や同僚の方が読んでいらっしゃれば、ぜひひとり情シスの方に一声かけたり、少し話をしたりするなどして、その方の現状を感じ取っていただきたいです。そして情シスの担当者が不幸な環境にいるのだとしたら、ひとり情シスの働き方改革を検討していただけると幸いです。
一方、モチベーションが高いひとり情シスの割合は41.7%となりました。これは、モチベーションが低いひとり情シス(27.3%)の割合を上回っており、意欲や意識の高いひとり情シスも存在しているのが分かります。筆者がお会いするタイプには、こちらの方が多いです。しかし、このひとり情シスの中にも自分を押し殺して頑張っている方がいる可能性もあります。突然、辞められる方の兆候は見出しにくいです。こちらに属するひとり情シスだからといって安心せず、対話をして仕事環境を気にかけていただけると幸いです。
- 清水博(しみず・ひろし)
- ひとり情シス・ワーキンググループ 座長
- 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年独立。『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。