「ひとり情シス」の本当のところ

第26回:SIerが不可欠なひとり情シス

清水博

2021-04-13 07:00

慎重な採用計画

 2020年12月にひとり情シス・ワーキンググループが実施した「ひとり情シス実態調査」と「中堅企業IT投資動向調査」によると、中堅企業の81.3%がIT人材不足を感じていました。元より日常的にやらなければならないことは多いのですが、2020年はコロナ禍によるリモートワークの準備や事業継続計画(BCP)の策定など予期できぬ業務の対応に追われ、人員不足をより強く感じたことと思います。

 しかしながら、IT人材の採用計画がある企業は15.8%にとどまり、採用に慎重な姿勢が見受けられました。とはいえ、経済状況が不透明なことから大手企業でも新卒採用を見送ることが多いので、中堅企業としては積極的な採用計画であるといえるかもしれません。

外部委託の増加と対策

 人材不足にもかかわらず増員計画がない状態となると、今後どうなるのでしょうか。調査の結果、システム管理をサポートする外部委託企業(SIer)への委託業務が増加していることが判明しました。「ほぼ全てを委託している」とする企業は18.3%、「約半分を委託している」は16.7%、「社内リソースを補う部分を委託している」は28.4%とひとり情シスの時間的制約やスキル不足をSIerによって補完していました。合わせると63.4%もの企業でSIerが不在だとシステム管理に支障が出る恐れがあるといえます。

 外部委託の増加についてあるひとり情シスの方とお話ししたところ、人員不足を補うためにITベンダーに委託できるものは必ず検討するとのことでした。しかし、大きな心配事もありました。それは、今までサポートしてくれたベンダーが提案を降りたり、今までの契約金額の値上げの打診をしたりするケースが増えてきていることです。IT運営にはさまざまなことが起きますので、気軽に相談できる委託先がなくなるのは大きなリスクとなります。

 SIerなどのITベンダーも、以前よりも顧客ごとの個別採算性を厳密に管理・評価しています。仕様に曖昧性が高く、当初より開発工数が増加したり、手戻りが起きたりするエンドユーザー企業は、要注意顧客と認識されているはずです。さらに、エンドユーザー企業だけではなくSIerのセールスやプリセールスでもIT人材は枯渇しています。収益性の高いエンドユーザー企業の案件や、経験が今後に生かせるような新規のデジタルトランスフォーメーション(DX)案件などに、リソースを配置したいと考えていると思われます。

 先にも述べた通り、現在サポートしてくれているSIerを失うのは大きなリスクです。そうならないためにも、取引を継続できるラインの条件などを聞くことや、PCや周辺機器などもSIerを経由することでビジネスボリュームを増やすこと、年間の予算執行額を伝えることなど、SIerと膝を詰めて今後のやりくりを確認することが大切だと、このひとり情シスの方はお話します。

 今までのITの提案は、エンドユーザー企業にとっては多くのベンダーを徹底的に競わせて良い条件の提示を求めるものでした。事実、提案する側のSIerからすると、どうしてもオーダーが欲しい時期だからというので金額規模によっては「戦略案件」として採算度外視で提案したものもあったと思います。そうして、両者の利害が一致して契約を締結してきました。しかし、そのような時代も最期を迎えているのかもしれません。令和の時代になり、働き方改革が進みました。ITベンダーとエンドユーザー企業の関係が、相互の会社や従業員の心理的安全を確保できるような契約関係になるのも悪くないと思います。

清水博
清水博(しみず・ひろし)
ひとり情シス・ワーキンググループ 座長
早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年独立。『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。

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