「ひとり」より「情シス」が大事
「ひとり情シス」が話題になったことで経営層が兼任や少人数のIT担当者に注目するようになり、「ゼロ」から「一人」や「一人」から「二人」に増員されるようになったのはとても喜ばしいと、あるベテランのひとり情シスの方から評価をいただきました。しかし、注目される内容が「ひとり」に偏っていて「情シス」そのものの認識が弱まっていることも危惧されていました。
一般的に情シスは、情報システム部門の略称として認識されていますが、そもそも情報システム部門は中堅中小企業にほとんど存在しません。大手企業では、情報システム部門は会社の情報システムやIT機器に関する全ての責任を持つことを経営会議や取締役会などで確認、承認されて設立されます。ITに関する責任部署であるので、予算申請や人員増員などを申請できる環境です。
しかし、中堅中小企業のひとり情シスは、一般的に情シスの仕事ではないことも要求される場合があるため、予算の獲得や担当の増加に多大なエネルギーを必要とします。このベテランのひとり情シスの方は、「一人、二人といった少人数の情シスであっても、会社から認識された情シスになる必要がある」と主張します。
中堅中小企業でも、「社内の情シスは何を目指し、何をすべき部門(人)なのか」「自社にとって必要なITを実現する組織(人)なのか」などを社長や経営層が認識することが、IT活用やデジタル化への第一歩です。中堅中小企業では人員を豊富に配置できないので、IT化にまつわる全てのことを同時にはできません。しかし、社内情シスが考えていることなどを経営層と定期的に意見交換することで、社内での細かい都度調整を削減することができます。
ひとりヘルプデスクの実態
今回の調査では、ひとり情シスのスキルを調査しました。フルスタックエンジニアといわれるように、IT戦略の立案や基幹システムの開発、インフラ構築、プログラム開発、ベンダーへのアウトソーシングの委託などマルチなスキルを保有する「スーパーひとり情シス」は14.3%存在していることが判明しました。
一方、ベンダーとの取次業務や、PCセットアップやオフィスツールなどの支援をメインの業務としていて、サーバー運用やプログラミングなどが苦手な「ひとりヘルプデスク」と呼ばれるタイプは27.2%存在していることが確認されました。ひとりヘルプデスクは、PC周辺は理解できるけれどもサーバーの運用やシステム開発などにはほとんどノータッチで、これらをITベンダーに丸ごとサポートしてもらっている状況です。
意図してこのようなひとりヘルプデスクを運営しているのであればよいと思いますが、経験豊富なひとり情シスやさらにスーパーひとり情シスと呼ばれる方々の多くは、PCの運用やヘルプデスクこそ外部に委託している方が多いです。これは、自身が理解できることこそ外部にアウトソースすべきだと考えているからです。そして、サーバー運用やシステム開発に積極的に関与してブラックボックスをなくすことで自身のスキルアップを実現し、社内システムの柔軟性も高めています。
- 清水博(しみず・ひろし)
- ひとり情シス・ワーキンググループ 座長
- 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年独立。『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。