デジタルトランスフォーメーション(DX)を適切に実施すれば、事業運営を根本的に変えて、財務面と運用面で大きな利益を得られる。だが、従来の働き方からテクノロジー主導の新しいプロセスへの移行は大規模な取り組みであり、物事が誤った方向へ進む余地を残す。よくある失敗には、過剰なコスト、処理能力を超えたタスクへの対応、イノベーションと実施のギャップなどがある。
DXは、単なる革新的なアイデアではなく、考え抜かれた新しいビジネスプロセスを実行して、事業運営を効果的な方法で変革するものでなければならない。このプロセスが失われると、混沌とした状態が生じる可能性がある。次の一手に考えを巡らせている人のために、プロジェクトを再び軌道に乗せる方法をいくつか紹介しよう。
1. 問題の根本的な原因を特定し、復旧計画を立てる
従来の業務の進め方から効率的なデジタルの方法への移行を開始すると、多くの変化が生じる。この変化には、コスト、時間、人員の増加、手順の変更などが伴う。
「デジタルと分析の変革は組織全体に展開されることが多く、多数の部署やサードパーティーが関与する。スキル、考え方、働き方などのソフト要素と、テクノロジー、インフラストラクチャー、データフローなどのハード要素がすべて、そのような変革の実施中に一気に変わる」。コンサルティング企業McKinsey Digitalでグローバルリーダーを務めるRodney Zemmel氏はこのように述べた。
変動要素が非常に多いため、問題の原因を特定することが極めて重要だ。こうした組織的な変化が原因で問題が発生していることも考えられる。問題を特定したら、速やかに復旧計画を立てよう。
「まずは、考えられる多様な障壁と、それを克服する方法、復旧する方法を想定したシナリオによって、計画を策定する。これにより、実行可能な選択肢が用意されるため、迅速に方向転換し、悪影響を最小限に抑えることが可能になる」とGartnerのVPアナリストのMonika Sinha氏は米ZDNETに語った。
2. 自社にとっての「デジタルトランスフォーメーション」の意味が定義されているか再評価する
企業でデジタルトランスフォーメーションを実施する方法の普遍的な青写真は存在しない。DXの意味は、対象となる企業、業界、プロジェクトによって異なる。DXに含まれる可能性があるものは、クラウドコンピューティングからモノのインターネット(Internet of Things:IoT)、ビッグデータ、人工知能、自動化まで、多岐にわたる。したがって、ある企業のDXの概念は、適用の点でも実施の点でも、別の企業の概念と全く異なる場合がある。
「失敗するやり方や、成功が不十分になるやり方として多いのは、経営者が『デジタル化しよう』と言った後で、デジタル戦略について公式に発表することだ」とZemmel氏は語る。
「そのため、リーダーシップチームのメンバーがそれぞれ独自のデジタルロードマップを作成する。6カ月後か1年後には、多数のデジタルパイロットプロジェクトが組織に残ることになる」
どこですべてが間違ったのかと悩んでいる人は、自社にとってのデジタルトランスフォーメーションの正確な意味について、今もチームの考えが一致しているかどうか再評価してほしい。
「デジタルトランスフォーメーションは非常に幅広いものを指す用語だ」とコンサルティング会社Deloitte LLPのバイスチェアPaul Silverglate氏は語る。「組織にとってのDXの意味と、量と質の両面で得られる付加価値を明確にすることが非常に重要だ」
3. 自社に対応可能な範囲で変革を実施する
ビジネスのあらゆる側面を一度に最適化したいと思うかもしれないが、必ずしもその必要はない。そうしようとすると、自社で処理できる以上の量に対応することになる可能性がある。