前回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業がクラウド活用で直面しがちな「データのサイロ化」を指摘するとともに、この問題を避けながらビジネスプロセスをエンドツーエンドで連携し、かつデータを活用しやすい形で統合するための「プロセスオーケストレーション」と呼ばれる方法論について紹介した。
今回は、この「プロセスオーケストレーション」を実施する際の具体的な進め方について解説していく。
「全体最適」と「アジリティー」の両立には組織の意識変革が必要
前回は、プロセスオーケストレーションにおいては、「部分最適」ではなく「全体最適」の視点が不可欠であると述べた。また、ビジネス環境の変化に「アジリティー」(迅速さ)を持って対応していくために、必要なシステムはスクラッチ開発ではなく、既存のクラウドサービスを短期間で導入し、組み合わせていく手法をとることにも触れた。
しかし、実際のところ「全体最適」と「アジリティー」の両立は、多くの日本企業にとって容易ではない。なぜなら、「全体最適」でシステムを導入し、それらを連携させるためには、目指すべきゴールや、そこに至るための段階的なロードマップの策定が欠かせないからである。一方で、「完璧なロードマップ」の完成を待っていては、「アジリティー」が十分に発揮されない。
このジレンマを解消するためには、組織全体の「変化」に対する意識を変える必要がある。ある時点で策定された「ゴール」や「ロードマップ」は、不変ではなく常に「変わっていく可能性があるもの」だという共通認識を持つことが必要だ。
旧来型の組織において、「IT戦略を立案する」という場合には、事前に綿密な実行計画と予算案を作り、その都度、経営陣による「承認」を得ながら進めていくというやり方が一般的だ。しかし、こうしたプロセスは「承認がなければ始められない」「一度決まったことは変えられない」といった意識を育てやすく、結果として組織のアジリティーを低下させる。
プロセスオーケストレーションでは、組織全体としてのゴール(業務が高度に自動化、効率化され、統合されたデータが意思決定に生かせる状態)はしっかりと共有しながら、並行して、組織単位での展開を迅速に進めていく。
この進め方の違いは、山頂を目指して登山をする場合に、「地図」のみに依存するか、適宜「コンパス」を使うかの違いに例えられるかもしれない。
旧来のやり方は、最初に途中の登山道や分かれ道などを詳細に記した「地図」を作成し、それのみを頼りに山頂を目指す方法に近い。この場合、もし天候などの影響で道が流失してしまったり、倒木や落石があったりして地図上の情報が変わっていたら、その時点で先へ進めなくなる。進むためには、新たな地図を作る必要があるが、作ったところで、それが山頂到達まで「正しい地図」であり続ける保証はない。
一方で、「コンパス」を利用する場合は、実際に山に登りながら、定期的に立ち止まって、目指すべき山頂と、自分たちの現在位置との関係を把握できるようにする。ルートは事前に大まかにイメージしておくが、その時点での周囲の状態や、自分たちのコンディションなどに応じて、変更できる余地を残しておく。時として、先へ進めなくなる状況は起こるかもしれないが、その場合も都度ゴールと現在の状況を見比べ、次に進む先を決める。そのため、ダメージや時間のロスは、より少なく抑えられる。
「環境が変化する」前提で山頂を目指すのであれば、結果的に後者のやり方で早く山頂に到着できる可能性が高いだろう。プロセスオーケストレーションでは、「コンパス」的なアプローチでゴールを目指す。こうした進め方を受け入れられる組織において、プロセスオーケストレーションから得られる成果は、より大きくなる。