KPMGコンサルティングは1月26日、世界15カ国2200人の経営幹部を対象に、企業におけるデジタル化の取り組み状況を調査した「KPMGグローバルテクノロジーレポート2022」を発表した。デジタル先進企業の99%はデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進効果を感じながらも、人材不足やサイバーセキュリティへの対応に追われているという。
KPMGコンサルティング 執行役員 Technology Transformation統括・セクターユニット副統括パートナー 浜田浩之氏は「特徴的な取り組みが見受けられる」と調査概要を説明した。
KPMGコンサルティング 執行役員 Technology Transformation統括・セクターユニット副統括パートナー 浜田浩之氏
恩恵を受けるのは顧客と向き合う部門
最高責任者(CxO)1090人、バイスプレジデント(VP)クラス493人、マネージングディレクター602人を含む2200人の経営層を対象に2022年第2四半期(4~6月)に調査。日本国内はCxO50人、VPクラス29人、マネージングディレクター21人の計100人が回答している。
多くの企業は先端技術を採用するまでの想定期間を今後2年以内と見据えており、デジタル投資から利益や利点を得たと回答した企業は99%におよぶ。多くの領域で人材不足が課題となり、その順位は第1位。DX推進における人材不足は国内外共通のテーマだが、各企業が注力するセキュリティチームの対策スケジュール遅延は58%にもおよんだ。
KPMGコンサルティング Technology Transformation Managementユニット統括 パートナー 尹暢模氏
昨今は大手IT企業が人材整理を表明しているものの、KPMGコンサルティング Technology Transformation Managementユニット統括 パートナー 尹暢模(ゆん・ちゃんも)氏は「(組織再編成の一環として)バックオフィス系が対象。エンジニアではない。日本企業の課題1位は人材確保にかかるコスト(が海外企業と比べて給与など)が相対的に低い。日本企業が太刀打ちできるかが大きな課題だ」と厳しい現状をつまびらかにした。
説明会では、顧客エンゲージメント向け技術への高まる熱気、デジタル化の進展と依然として続く脅威、対応に追われるサイバーセキュリティチームの3点を解説した。
前述の通り、顧客エンゲージメント向け技術の導入意欲は各企業も積極的だが、アプリケーションのモダナイゼーション(近代化)やインテリジェントオートメーション(高度な自動化)に対する取り組みは数年内に減少すると回答した。
例えば、今後1年でアプリケーションモダナイゼーションに投資する計画を持つグローバル企業は39%だが、数年後には33%まで減少。日本企業はインテリジェントオートメーションへの投資が43%と1位だったが、数年後には36%まで低下する。尹氏は「デジタル投資が増加し、自社が抱える既存技術に対しては一定のめどが立ち、目標に達しつつある」と推察した。
興味深いのが、技術導入で恩恵を受ける部門の割合である。マーケティング部門やサービス部門は44%(日本は37%)、IT部門は36%(同36%)、人事部門は34%(同34%)が上位に並んだ。最下位は購買部門で30%(同22%)。
「恩恵を受けているのは顧客と直接対峙(たいじ)する部門。ただ、日本企業も同様の傾向が見受けられるものの若干の温度差がある」(尹氏)
デジタル化の進展は、以前ほどDX化への取り組みが企業の差別化要因に至らないことが分かった。グローバル企業の99%(「効果的」「常に効果的」「極めて効果的」を合算)、日本企業の100%がデジタル技術を有効活用し、大半の企業がDX化は当然の選択で収益性向上(グローバル企業は11%以上、日本企業は22%)に寄与させている。
クラウド移行もグローバル企業15%、日本企業20%が継続的な最適化に取り組んでおり、グローバル企業の32%、日本企業の29%が非常に満足と回答。だが、課題としてデータサイエンティストやエンジニアに代表される人材不足(グローバル企業44%、日本企業37%)や、システム調達や人材獲得の高コスト(同32%、同41%)を課題に上げる企業が目立った。
最後はサイバーセキュリティチームの現状。グローバル企業の42%(日本企業の48%)が戦略的進展に取り組んでいるものの、ここでも人材不足が顕著になる。具体的にはスキル不足(グローバル企業40%、日本企業45%)や企業文化の障壁(同35%、同39%)、資金調達や投資(同32%、同33%)が目標達成の課題に上がった。
また、リモートワーク/ハイブリッドワーク環境の導入(同37%、同33%)や、顧客チャネルのデジタル化(同34%、同26%)、運用技術/産業用制御システムの複雑化(同33%、同37%)も主な課題で、コロナ禍における従業員同士の接点や顧客接点の変化、システムの現代化に苦慮している。
それでもセキュリティ対策に自信を持つ企業は多く、「過半数以上のグローバル企業が人材不足でも自信を持っている。対する日本企業はグローバル企業以上に自信があると回答」(尹氏)という。
KPMGコンサルティングは調査を通じて、日本のデジタル成熟が高い企業は以下の7つの特徴を保持していると指摘している。
- 組織間の風通しをよくするサイロ化の解消
- 人材不足の解決に自ら取り組む
- ステークホルダー間の緊密な連携によるクラウド構築
- サイバーセキュリティの専門家が、早期のテクノロジー選定や従業員研修に必ず関与する
- 顧客の声を生かした先端技術戦略
- 顧客体験向上を目的としたプラットフォームプロバイダーの変更準備
- 臆せず新たな手法を賢明に取り入れる
その上で「新たなテクノロジー投資が浸透していくが、人材不足をどのように解決するのか。ここがDXを成功させる一つのキーワードとなる」(尹氏)と予見した。
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