長野県内全ての産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を後押しする「信州ITバレー構想」。同構想を推進する信州ITバレー推進協議会(NIT)では、「IT企業の開発力向上やビジネス創出支援の強化」「全ての産業のDX推進によるIT企業活躍の場づくり」「県内でグローバルに活躍するIT人材の育成・誘致・定着」――の3本の柱で同構想の実現に向けて取り組んでいる(前編)。
後編では、経済産業省 情報処理推進機構(IPA)が実施する「地方版IoT推進ラボ」の選定を受けた、NIT事務局内に設置される「AI・IoT等先端技術利活用支援拠点」(長野県 IoT推進ラボ)の産業DX推進に向けた取り組みを紹介する。
左から産業DXコーディネータの西村元男氏と角田孝氏
同ラボでは、長野県内のあらゆる産業分野の事業者を対象に、人工知能(AI)やIoT、ロボティックプロセスオートメーション(RPA)などを活用した生産性向上を支援している。同ラボの「産業DXコーディネータ」として活躍する角田孝氏と西村元男氏は、県内企業のDX支援やIoT事業化事業による伴走支援を行い、同構想の推進目標の一つである「AI/IoT導入率の向上」を目指す。
主な事業内容は、中小企業やITベンダーからの先端技術活用に関する「相談、マッチング支援」や、実際の企業現場をモデルに課題整理や解決手法の検討を行う「IoT導入研修」、DX推進に向けたフォーラムやセミナー開催などを行っている。
同ラボによると、県内企業のAI/IoT導入状況は、「関心はあるが導入は予定していない」「活用に向けて情報収集中」と、AI/IoTを活用していない企業が大半を占めているという。この結果から、経営層へのAI/IoTの活用の啓発やITベンダーとのマッチング支援を強化する必要があるとし、セミナーやシンポジウムを定期的に開催している。県内企業の経営者層に加えて支援機関やITベンダーの参加者も多く、DXの啓発効果がある一方で、実践を促すにはもう一押しが必要という課題もあるという。
また、ITベンダーと企業とのマッチング支援の活動を進める中で見えてきた課題もある。当初は、企業や支援機関、ITベンダーの登録が順調で、ITベンダーの情報を提供する機会が多くあったが、相談案件との効率的なマッチングには専門家やコーディネータなど、人の介在がどうしても必要になる。今後は、ITコーディネータや支援機関との連携を通してマッチング支援を拡充していく構えだ。
ITツールの導入に対して同県の中小企業はどのような思いを抱いているのかについて西村氏に尋ねた。
「世の中にITツールはあふれていて、ニュースや新聞で多く取り上げられていることもあり、企業の皆さんは興味を持っている。しかし、実際に導入するとなると、どのツールを自社の事業のどの部分に当てはめれば良いのかが結びつかない。できれば活用したいと考えているが、効果がすぐに想像できない。また、経営者は、ITツールを使って自分たちが10年後どうなっているのかまで考えなければいけないため、導入しても本当にうまく活用できるのかを考えると、すぐに飛びつくことは難しいのではないか」