今回は勝手に“大胆な進言”をひとつ書いてみる。進言の相手は米通信事業者Sprint会長でもある孫正義。進言の趣旨は「SprintとT-Mobile USA(T-Mobile)の合併を実現させるためにも、ぜひプロバスケ(NBA)チームのLos Angeles Clippers(LAC)の買収に名乗りを上げてはどうか」というものだ。
[Masayoshi Son, CEO of SoftBank Corporation on buying T-Mobile]
SprintによるT-Mobile買収については以前に書いたことがあった(「ソフトバンクと米T-モバイル--異端児をトップに戴く「似たもの同士」?)。また「T-MoibleにJohn Legereというとてもキャラの立った最高経営責任者(CEO)がいる」という話も記していた(「脱通信キャリアへ--T-モバイルCEOの悪ガキぶりが面白い」)。
米国時間4月30日付のBloomberg記事によると、このLegereを「Sprint/T-MoibleのCEOに据えよう」という話がソフトバンクとDeutsche Telekom(T-Mobile)との間で実際に進んでいるらしい。無論、あくまでも「合併が実現できたら」という仮定の話のようである。
SprintとT-Moibleの動きをおさらい
各所で報じられているように、Sprintの幹部は2014年初め(1月末~2月頭)に米司法省(DoJ)や連邦通信委員会(FCC)に出向き、T-Mobile買収の可能性について当局幹部の感触を探っていた。いずれも反応はあまり芳しくなかったようで、「FCC委員長のTom Wheelerが懐疑的な見方を示した」といった話も報じられていた。
「一筋縄ではいかない」「Sprint買収の時ほどすんなりとはいかない」――。
これらの会見を通じてSprint関係者はそんな手応えを感じたのではないかと想像されるが、無論、それがわかったのは後になってのこと。具体的には3月上旬に孫が自ら、著名なジャーナリストCharlie Roseのインタビュー番組に出演したり、ワシントンDCの商工会議所で講演したりなどして、「米国に本物の高速ブロードバンドをもたらす(そのためにはSprintとT-Moibleの合併が是非とも必要)」などと訴えていたあたりのことだった。
この時に目を惹いたのは、孫がSprintとT-Mobileの合併実現に向けた“戦術”を切り替えてきたことだ。ざっくりいうと「ワシントンで業界インサイダーだけを相手にしていてはらちが明かない」と思い、それで「世論を味方に付けよう」としたと思える節が感じられた。
前述のインタビュー番組出演もそうだし、その直前に出ていたWSJの援護射撃的な記事もその切り替えを示す証拠と思われた(WSJ記事には,ソフトバンクとSprintの協力がなければ、わかるはずもなさそうな事柄がいろいろと書かれている)。
もうひとつ“戦術の切り替え”としてより重要に思えたのは、SprintとT-Moibleの合併によって変化をもたらせる対象を携帯通信分野だけでなく固定線(有線)の分野にまで拡げて議論を進めようとしてきたこと。
「ブロードバンドの普及」を国策に掲げながら――少なくとも現大統領のBarak Obamaは最初の選挙戦でそれを公約のひとつとして盛り込んでいた――実際にはちっとも普及が進んでいない、さらに既存のブロードバンド接続サービスもかなり割高(料金に比べて通信速度がかなり遅い)といった実状をついてきたわけだが、この“切り替え”を2月中に起こった“ふたつの大きな出来事”を逆手にとった動き、とみることもできる。
その大きな出来事とは、ComcastによるTime Warner Cable(TWC)の買収計画発表と、そしてComcastとNetflixとの「有料ピアリング(peering)の合意」のふたつである。