米携帯通信会社のSprint(加入者数で第3位)がT-Mobile USA(同4位)の買収を検討しているとする話が、先週の終わり(米国時間13日)にThe WallStreet Journal(WSJ)で報じられていた。
・Sprint Working on a Bid for T-Mobile - WSJ
記事中には具体的な情報はあまり含まれておらず――ただし、「ソフトバンクの孫正義が中心になってこの話を進めようとしている」という点は目を引く――現在は調査検討中といった段階――米司法省(DoJ)や連邦通信委員会(FCC)あたりから独禁法がらみで反対の声が挙がらないかなどを調べているところ……などとあり、また仮にSprintが買収提案をするとしても「来年前半」などとかなりおおまかなことしか書かれていないので、おそらくはSprintの上げた「観測気球」といった類いのものかもしれない。
両社の合併の可能性は、これまでも断続的に話が出ていた。今年7月にはT-Mobileの最高経営責任者(CEO)、John Legereが「Dish NetworksあるいはSprintから買収のオファーがあれば検討してもいい」とする旨の発言(註1)をしていたし、秋以降もT-Mobileの最高財務責任者(CFO)の口から、両社の合併を匂わせる発言が何度か出ていたことも報じられていた。
ただし、Sprint側もT-Mobile側も最近大きな合併をしたばかり――ソフトバンクはSprintを、SprintはClearwireを、そしてT-MobileはMetroPCSを今年買収完了――だったため、その吸収作業が最優先という感じで、「さらに次の合併」というのは時期尚早な話と思えなくもなかった(将来の可能性としては十分あり得るにしても)。
そうしたものと、今回のWSJ報道とに違いがあるとすれば、それはSprintとT-Mobileをめぐる状況の違いに起因するものといえるかもしれない。
AT&Tへの身売り話が頓挫した2年前の「死に体」状態から奇跡的に蘇って、いまや「イケイケ」感さえあるT-Mobile。それに対して、楽観的にみてもあと半年~1年くらいは「じっと辛抱」を強いられそうな状況のSprint。Sprint側からすれば(LTE、LTE-A網の構築、展開に向けた)大変な作業に手間取っているうちに、後ろから追い上げてくるT-Mobileの足音がどんどん大きくなっている……そんな感じがしていても不思議はないよう状況に思える。
実際に買収提案がなされるか、その時どんな条件が示されるか――AT&Tが2011年、T-Mobileの買収に動いていた時には、親会社Deutsche Telekomに対して、プレミアム付きで390億ドルという金額が出されていた――などは無論まだ分からない。だが、ソフトバンク/SprintとしてはT-Mobileを首尾良く買収できれば、厄介な脅威を排除できると同時に、上位2社――Verizon WirelessとAT&T――とT-Mobileとの間で板挟みになっている今の状態から脱して、本当の意味でのチャレンジャーに変身できる……その点はかなりはっきりしているようにも思える。
だいぶ前振りが長くなってしまったが、今回の話の一方の主役となりそうなT-Mobile USAのCEO、John Legereという人物――かなり異色な、キャラの立った経営者について少し紹介する。iPhone投入前のソフトバンクのことを覚えている人ももうだいぶ少なくなったかと思うが、あの頃のソフトバンク――低価格の「ホワイトプラン」とか「かけ放題」とかさまざまな施策を次々に打ち出して、なんとか(買収したボーダフォンの)事業を盛り返そうとしていた当時のソフトバンクとよく似たようなことを、T-Mobileが今米市場で大手2社を相手に回してやりはじめている……そういうと話が早いかもしれない。