日本IBMは10月21日、プライベートクラウドのポータル構築ソフトウェア「IBM Starter Kit for Cloud」を発表した。「VMware vSphere 4.1」と「IBM PowerVM 2.1/2.2」のハイパーバイザに対応する。
Starter Kit for Cloudは、仮想化されたマシンのユーザー部門への提供を自動化する機能とセルフサービスポータル、ユーザー部門ごとの仮想マシン(VM)の利用量を可視化して、実際に使用料を課金できる簡易課金機能が搭載されている。
日本IBM専務執行役員の藪下真平氏(システム製品事業)は、現在の日本企業の情報システムは「ハイパーバイザによる仮想化とサーバの集約から、サービス化と自動化による運用管理の効率化へと関心が変わってきている」と説明する。仮想化によってサーバを集約することに成功しているが、運用管理をどうやって効率化していけばいいのかを探っている状況と言える。
IBMでは企業向けクラウド、つまりプライベートクラウドに欠かすことができない技術として物理リソースを仮想化して、管理を下位レイヤに分離する“仮想化”、ITサービスをメニュー化して可視化する“標準化(サービスカタログ)”、要求されたリソースを自動的に構成し提供する“自動化(プロビジョニング)”の3つが必要と定義している。
つまり、日本企業の現状は、プライベートクラウドの前提となるリソースがプールできている段階にあるものの、サービスカタログとプロビジョニングがまだ欠けている段階だ。別の表現をすれば、単純にリソースを集約しただけであり、プライベートクラウドであるとは言い切れない状況だ。
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より具体的にいうと、以下のようなケースだ。ユーザー部門がIT部門にVMの利用を申請、IT部門では、IPアドレスやリソースなどを確認してから新しいVMを作成、ネットワークが疎通できることを確認。その後でユーザー部門に引き渡す。日本IBMの佐々木言氏(システム製品事業クラウド・ソリューション企画部長)によると、こうした作業が「2週間かかる」という。
ユーザー部門とIT部門との間のやり取りが紙やメールで行われていたり、VMの設定が自動化されていなかったりするためだ。サービスカタログとプロビジョニングができていないのである。この状況では、プライベートクラウドのメリットである柔軟性をユーザー部門に提供できていないと表現できる。
そうした状況に対して提供されるのがStarter Kit for Cloudだ。セルフサービスポータルには登録されたVMのテンプレートが一覧表示されており、ユーザー部門は、IT部門の手を煩わせることなく、そこから必要なVMを調達できる。
Starter Kit for Cloudの課金の仕組みは、「リソースが無尽蔵に使われることを防ぐ」ためのものであり、「コスト意識を持ってもらう」ためのものである。課金の機能は、グループ単位に使用料金を計算できるが、CPU1個分やメモリ1Mバイト分、ディスク1Mバイト分といった単価を設定できる。VMが稼働している時間が課金の対象時間といったことも可能だ。事前にユーザー部門に利用できるリソース利用料を決めておくプリペイド方式を取ることもできる。
他社のプライベートクラウド運用管理を担う製品でも、こうした課金の機能は提供されているが、「複雑であるために、どうやっていいのか分からない」というのが現状だ。「課金の仕組みを取り入れたいが、やり方が分からない」というユーザー企業に向けたのが、Starter Kit for Cloudの課金機能だ。
Starter Kit for Cloudは中小企業を対象にしたソフトウェアだ。つまり仮想化でサーバを集約した中小企業に対して、自動化とセルフサービスポータル、そして課金という機能に限定することで、プライベートクラウドへの参入障壁を低くするためのものである。こうしたことから佐々木氏は、今回のStarter Kit for Cloudを“エントリクラウド”と表現している。
vSphere 4.1を搭載したIAサーバ「IBM System x」と「IBM BladeCenter」向けの税別価格はサーバ1台あたり19万8000円(運用管理ソフトウェアの「IBM Systems Director Standard Edition for x86」も含まれている)。PowerVMを搭載した「IBM Power Systems」サーバ向けの税別価格はCPU1コアあたり1万2800円。標準的構成で他社製品と比較すると「約5分の1の費用」(佐々木氏)と価格もエントリしやすいものであることを強調している。
エントリクラウドであるStarter Kit for Cloudに対して、より複雑な、企業外のパブリッククラウドや外部ディレクトリとの連携、多段階の承認などの機能を加えた“アドバンスドクラウド”の製品ももちろんIBMは提供している。エントリクラウドからアドバンスドクラウドへのアップグレードパスとなるようなものを現在検討していると説明している。