IBMの研究所が取り組んでいる新タイプのメモリは、携帯機器およびデスクトップPCに保存できるデータの容量と、データへのアクセス速度を大幅に変える見込みがある。
6年のあいだ理論上の概念にとどまっていた「Racetrack」と呼ばれるメモリが、ようやく実現に向けて大きな一歩を踏み出した。IBMの研究者たちはこのほど、Racetrackの基礎となる物理理論が正しいもので、新しいタイプのメモリの開発と生産に応用できることを確認した。
この画期的なメモリは、ノートPCやスマートフォンなどの携帯機器にまったく新しい世界を切り開く可能性がある。携帯機器に格納できるデータは現在の100倍以上になり、50万曲もの楽曲、3500本もの映画を1台に保存可能になる。また、Racetrackは消費電力がかなり少ないため、1回充電すれば、数日あるいは数時間といった程度でなく、何週間も続けて使用できるようになる。
新しいメモリは、デスクトップPCやサーバにも活用され、より多くのデータに今よりずっと高速にアクセスできるようになる見込みだ。いろいろな意味でRacetrackは、フラッシュメモリと磁気記憶装置それぞれの長所を兼ね備えており、いずれは現在のRAMやFlash RAMに、さらにはハードディスクに代わる技術になっていく可能性がある。
Racetrackの仕組みを簡単に説明すると、従来のメモリでは必要なデータを探し出す必要があるのに対し、Racetrackの場合はデータを利用可能な場所に自動的に移す。これによってデータへのアクセスが高速になるだけでなく、これまで以上に小さな領域にずっと多くのデータを保持できるようになる。
Racetrackという名称は、髪の毛の1000分の1という細いナノワイヤの「競技トラック」をデータの磁気ビットが移動するところからきている。
データ自体は「磁区」と呼ばれる磁気の小区域に格納される。Racetrackメモリは、個々の電子のスピンを利用して、磁区をナノワイヤに沿って時速数百マイルというスピードで移動させ、原子レベルで正確な位置に停止させる。その結果、1秒の10億分の1程度のサイクルで情報を取り出すことができる。
IBMの科学者たちは、磁区の移動する時間と距離を初めて測定し、移動を制御する方法をさらに明確に理解できるようにした。その結果、Racetrackは単なる研究対象から現実のものとなった。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。