前回は、人間の働く意欲の素となる「モチベーション」について、その要因や構造を解き明かそうとする様々な理論を紹介した(「やる気」は5段式ロケットで打ち上がる?--モチベーション理論を勉強してみる)。今回は、人的資源から生み出される最も重要な価値ともいえる「知的資源」について考えてみよう。
知的資源は、企業の価値創造に欠かせない、極めて重要な資源である。大量生産、大量消費時代における経営の関心事はもっぱら天然資源にあったのだが、1990年以降、先進国の経済基盤が知的財産に移行していくにつれ、いかにして自社の「知」をマネジメントするか(経営者の視点では、「知」への投資効果をどうやって最大化するか)に関心が移っていった。
そもそも「知的資源」って何だろう?
知的資源は一般に、企業の中のいろんな場所に散在しているものだ。それは、社員の頭の中にあるし、紙に書いてある場合もある。パソコンやファイルサーバの中にもあるだろう。あるいはキャビネットの中の大量の書類の間に挟まったまま、長い間無視され続けているものもある。最前線で活躍する社員が持っているかもしれないし、資料室の中で居眠りしている人の夢の中に出てくることがあるかもしれない。
「やる気」の素がモチベーションであったように、知的資源(ナレッジ)は、いわゆるビジネスの新しいアイデアを生み出す素のようなものだろう。経営のナレッジによって業績を改善させたり、テクノロジのナレッジとサービスのナレッジを組み合わせて、イノベーションを生み出したりできる可能性があるのだ。
知的資源をうまく活用できれば、難しい問題に直面した時、非常に効率よくコストをかけずに解決することができる。多くの企業が、ナレッジマネジメントに真剣に取り組んできた理由はそこにある。企業はこれまで、知的資源の発掘と活用に対して多大な投資をしてきたが、残念ながら思ったような効果は得られていないようだ。知のマネジメントはなかなか手強いテーマなのである。