再利用で速度を上げるか、専門性でじっくりいくか
Morten T. Hansen, Nitin Nohria, Thomas Tierneyは、ナレッジマネジメント戦略について、「コード化戦略」と「個人化戦略」の2つに大別し、どちらの戦略を選択するかは企業の事業特性や人材採用方針などに左右される、と提案している。
コード化戦略では、知は「人」対「文書」のアプローチでコード化される。知を生み出した人からそれを引き剥がし、独立した知として貯蔵庫に蓄積し、様々な目的で再利用できるようにする。これにより、様々な知が幅広く再利用されることで、業務が効率化され、コスト削減にもつながるという考え方だ。ITには多額の投資が行われる。
一方の個別化戦略は、「人」対「人」のアプローチであり、人との対話を重視する。コード化できない暗黙知を、粘り強く対話を通して受け継いでいく。課題について何度も繰り返し協議するため、組織としての洞察力が高まる。この戦略では、暗黙知を共有するために、人と人とを結ぶネットワークに投資をするのが特徴だ。
Hansenらは、優位性を築いている企業は、2つの戦略のうちのどちらかに重点を置き、他の戦略は補完的に使っていた、と述べている。
コード化戦略に適した企業は、何度も同じような問題に直面する企業だ。コード化した知を効率よく再利用することで、仕事の絶対量が減り、コストが下がり、多くの仕事を受けられるからだ。これを「economics of reuse(再利用の経済)」に依存している企業であるとした。
これに対して、個人化戦略を取る企業は「economics of expert(専門性の経済)」に依存すると述べている。暗黙知を価値の源泉としており、システム化できないため効率化できず、暗黙知を共有するには多くの時間もコストもかかる。しかし、その専門性には希少価値があり、高値で売れるのだ。
その上で、ナレッジマネジメントの戦略選択のポイントとして、以下のように整理している。Hansenらの知見はいまなお興味深く、有用ではないだろうか。
以上、今回は組織における知的資源とナレッジマネジメントについて見てきた。次回は、「キャリアデザイン」について考えてみよう。