しばしば「テンションが上がる」「やる気が起きる」とか、「君にはパッションが感じられない」といった表現をする。テンションや“やる気”を引き起こすのは、人が行動を起こすにあたって、いわば「スイッチ」となるような、何らかの刺激があるからだろう。その刺激が強いときに、人はテンションが上がるとか、やる気が起きると表現するようだ。
人が働くときにも、働く意欲の元となる要因が存在する。働くという行動について、人は何によって動機づけられ、何によって働く意欲が喚起されるのか。その要因や構造について理論的に解明しようとするのが「モチベーション理論」である。今回は、それがどんな理論なのか、のぞいてみよう。
人の欲求は何からできている?
モチベーション理論において、最も有名な理論と言えるのが、Abraham Harold Maslowの「欲求階層理論」だ。人の欲求を5つの階層に整理したもので、シンプルで前向きな考え方は、広く受け入れられた。
Maslowは、人の欲求の最上位の階層を「自己実現 (Self-Actualization) 」の欲求と位置づけた。1970年ごろに日本国内で怪しげな自己啓発ブームが巻き起こった際に「自己実現」という耳新しい言葉が盛んに用いられた。
ここで欲求階層理論をごく簡単に説明しておこう。
Maslowは下の4階層を「欠乏動機」、最上の1層を「成長動機」として区別している。人の欲求は低次から高次へと段階的に向かい、低次の欠乏動機が満たされるほど、成長動機が強く発現するとした。この成長動機となる自己実現欲求が、Maslowの理論の中核をなす概念である。
ちなみに、最下層(第1層)の「Physiological Needs (生理的欲求) 」は、呼吸や睡眠、食欲、性欲などの生理的な欲求。第2層の「Safety Needs(安全欲求)」は、安全な住居や仕事、健康、危険回避など、安全性や安定性への欲求。第3層の「Needs of Love, Affection and Belonging(所属・友愛欲求)」は、組織への所属、友情や愛情への欲求。第4層の「Needs for Esteem(尊厳欲求)」は、他者からの尊敬、地位に対する欲求。第5層の「Needs for Self-Actualization(自己実現欲求)」は、自己の成長、成功するための能力獲得への欲求のことである。