富士通が東京証券取引所に納入した株式売買システム「arrowhead(アローヘッド)」は、2010年1月4日の稼働以来、現在までの約3カ月間、トラブルなく運用されている。
arrowheadは、注文応答時間や情報配信スピードの高速化を実現し、注文、約定、注文板などの取引情報を、異なるサーバ上で三重化して処理するなど、高速性と信頼性を兼ね備えた「世界最高水準の取引所システム」と位置づけられているものだ。
富士通では、arrowheadについて「金融テクノロジの高度化などを背景に、個人投資家のオンライン取引の普及や、証券会社や機関投資家によるアルゴリズム取引など、新たな取引が広がりをみせている。こうした市場環境や取引形態の変化のなかで、注文レスポンスや市場情報配信の高速化のニーズが高まっており、東京証券市場の国際的な市場競争力を強化するためにも、大規模なサーバシステム上で、高性能、高信頼なミッションクリティカルシステムを実現する必要があった。新たな先進技術や機能強化を組み入れたミドルウェアの採用など、富士通の総合力を結集して構築した」と説明する。
中でも、arrowheadに求められていたのは「10ミリ秒」(1ミリ秒は1秒の1000分の1)の高速性だったという。株式売買の発注元から注文を受け、応答保証サーバで受付通知のキューを発行し、受付通知を発注元に戻すまでの目標時間とされていたのが「10ミリ秒」だったのだ。
これに対して、富士通では1月の稼働時点で「5ミリ秒の注文応答時間を実現する」と発表。この時点で、目標の2倍以上のスピードだが、現在の実績は、なんと「2ミリ秒」。目標の5倍にあたるレベルでの高速稼働を実現しているという。この高速性はarrowheadの最大の特徴ともいえるものだ。
ミリ秒単位のレスポンスを支えるインメモリDBMS
この高速性を支える基幹ソフトウェアが、インメモリデータの高速データ管理ミドルウェア「Primesoft Server」である。
「基幹IAサーバにはPRIMEQUESTを採用し、SANディスクアレイとしてETERNUSを採用している。だが、これらのハードウェアの仕様は特別なものでない。これだけの高速性を実現しているのは、Primesoft Serverによるところが大きい」と語るのは、富士通、プラットフォームソフトウェア事業本部、次世代社会基盤ミドルウェア開発統括部部長代理の橋詰保彦氏だ。
Primesoft Serverでは、メモリ上に取引情報を配置することで、超高速データアクセスと、高いレスポンス性能、高スループットを実現している。「高速アクセスにおいて、ネックとなるのがI/O。ディスクアクセスをなくすことでI/Oのネックをなくし、メモリ上で高速アクセスするという、これまでの既存技術にとらわれない発想によって実現した」(橋詰氏)とする。
ログ情報についてもインメモリ処理を行っており、これもPrimesoft Serverならではの特徴といえる。さらに、メモリ上に配置した取引情報を三重化。各データ処理の実行環境は、「アプリケーション層」「インスタンス層」「ノード層」の3層に切り分け、アクティブインスタンスの異常時には、わずか数秒で、スタンバイインスタンスに切り替えることができるという。
「異常検知を含んで1.5秒程度での切り替えが可能。誤認なく異常を検知するという点で工夫を凝らしているのが、Primesoft Serverの特徴と言える」(橋詰氏)