東京証券取引所(東証)と富士通は1月4日、東証の新株式売買システム「arrowhead」の稼働が始まったことを発表した。arrowheadは、注文応答時間が5ミリ秒、3ミリ秒の情報配信スピードを実現しているという。
東証の旧システムでは売買注文処理(約定)に2〜3秒かかっていたが、arrowheadは米英と同様の水準になると見られる。売買と市場情報の両方がミリ秒(1000分の1秒)のスピードになることで、市場動向をよりリアルタイムに把握して取引できるようになり、株式の流動性が高まるとともに、これまでにない取引スタイルやビジネスモデルを産みだせるようになると期待しているという。
arrowheadは、OSに「Red Hat Enterprise Linux」を採用し、基幹IAサーバ「PRIMEQUEST」やPCサーバ「PRIMERGY」、SAN対応ディスクアレイ「ETERNUS」、ネットワークサーバ「IPCOM」、スイッチ「SR-S」、IPアクセスルータ「Si-R」などの富士通製ハードウェアが使われている。arrowheadは、バックアップ用としてセカンダリサイトも用意されており、PRIMEQUESTがプライマリサイトは250、セカンダリサイトで180活用されているという。
富士通では、arrowhead導入にあたって、信頼性と拡張性を兼ね備えた高速データ管理ソフト「Primesoft Server」を新たに開発している。Primesoft Serverは、メモリ上に取引情報を配置してマイクロ秒(100万分の1秒)レベルの高速データアクセスから高いレスポンス性能とスループットを実現しているという。また、メモリ上に配置した取引情報を三重化して複数サーバを並列稼働させることで、障害時の秒単位でのサーバ切り替えやデータの保全性を確保しているとしている。
arrowheadには、富士通製データベース(DB)「Symfoware」の機能強化も図られている。DBとしての信頼性を維持しつつ、1分間で1400万回以上のSQL命令処理という大量データの高速処理を実現している。また、データ量増加に柔軟に対応できるロードシェア機能を追加している。
今回の新システムには、このほかにビジネスアプリケーション基盤「Interstage」、統合運用管理ソフトウェア「Systemwalker」、クラスタリングソフトウェア「PRIMECLUSTER」、ストレージ基盤ソフトウェア「ETERNUS SF」といった富士通製ソフトも活用されている。
arrowheadは、注文、約定、注文板などの取引情報を三重化したサーバ上で処理している。米英と同様の高速性に加えて、信頼性をより高めることで、海外のグローバルな市場参加者との取引にも耐えられるような設計となっている。
またarrowheadは、十分なキャパシティを確保して、安定した取引サービスを提供できるように、常に取引ピーク値の2倍を確保している。必要に応じて1週間程度でキャパシティを拡張できるようにもなっている。稼働開始時点で、過去のピーク値の約4倍のキャパシティを確保している。
新システムでは、市場情報サービスも変えている。これまでの市場情報サービス「FLEX」には「FLEX 10Mbps」と「FLEX 1.5Mbps」の2種類が用意されていたが、新システムではFLEX 10Mbpsが「FLEX Standard」に、FLEX 1.5Mbpsが「FLEX Light」に変わっている。加えて新しいサービスとして「FLEX FULL」が加わっている。
帯域幅はFLEX Standardが100Mbps、FLEX Lightが2Mbpsに広がっているとともに、FLEX Standardの複数気配情報が上下5本から8本に拡大するなど情報が拡充されている。新しいFLEX FULLでは、すべての銘柄のすべての注文情報がリアルタイムに配信される。個人投資家を含めたすべての市場参加者は、リアルタイムにすべての注文情報、気配情報を入手できる。
これにあわせて、東証での株式売買制度も一部で変更される。取引の希望価格のことを指す「呼び値」の売買単位の刻み、制限値幅、特別気配の更新値幅などが一部見直されている。また「板寄せ」時での合致条件の一部見直し、「連続約定気配制度」も導入されている。
東証では、約定処理が高速化されたことで、株価が急変動する可能性があるとしている。板を視認してから発注して、その註文が売買システム上で処理された板に登録されるまでに、板の上では多くの注文が約定して、値段の変動が多いときには数百回といった規模で起こっていることも想定されるとしている。arrowhead稼働に伴う売買制度の変更は、東証のウェブサイトで確認できる。