リアルタイムなナレッジ共有、ナレッジ活用を考える上で、システムを実践的に取り入れて工夫を重ねた企業事例から得られる示唆は多い。そこで今回は2月に開催された「みずほビジネスイノベーションフォーラム」で発表された損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)とアメリカンファミリー生命保険会社(以下、アフラック)におけるナレッジマネジメントの事例を紹介しよう。
新たなコミュニケーション手段を模索した損保ジャパン
損保業界は、保険の申し込みや事故処理関係などの事務処理において、長らく紙中心の文化が続いていたが、大量の契約者データを扱うことによる情報量の飛躍的増大に対応するために1990年代半ばから急速にシステム化が進んだ。
損保ジャパンでも、ホストコンピュータとともにクライアント系の整備が進み、1998年には「Windows NT」の導入と時を同じくして、グループウェアとして絶大なシェアを誇っていた「Lotus Notes」の採用に踏み切った。
この時期を境に情報の蓄積、共有の環境が整いはじめた半面、新たな課題も生じた。それが、紙の情報や顔の見える打ち合わせといった「対面・アナログ的」なコミュニケーションから、「データベース主体」あるいは「ネットコミュニティ主体」のコミュニケーションへの発想転換だったという。さらに、急速な情報化の進展は情報の氾らんを招き、問題をより複雑にしていた。
損保ジャパンのIT企画部で企画グループリーダーを務める槻木清隆氏は「居酒屋での感情共有、先輩後輩間の職場教育、たばこ部屋でのノウハウ伝承など、日本的経営手法のメリットを保ちつつ、時間的、空間的優位性を獲得できるナレッジマネジメントの実現が大きな目標となった」と説明する
「快・協・創・玄」のコンセプト
ナレッジマネジメントに取り組むにあたり、損保ジャパンには3つの課題が存在したという。1つは、情報が点在し、探すのに手間がかかるという「情報アクセス」の問題。2つ目は全国の社員が持っている実践的ノウハウの「交換と共有の壁」。そして3つ目が、通達や施策が分かりづらく、本社に意見もしづらいという「情報発信者中心の文化と場の欠如」である。
同社では、2005年に経営会議においてナレッジワーキンググループを立ち上げ、現状診断を行った。その結果、先輩の背中を見て育つという文化が消えつつある中で「気付き力」の向上が求められているといった意見が出たほか、特にバッドニュースなど、経営に現場の状況が十分に伝達されていない、電話中心の社内情報流通チャンネルの限界、組織構成に対して「横」や「斜め」に存在する知識や情報共有が不十分といった分析を行った。これらの問題を解決するため、同社では制度改革や業務運用の改善に加え、ITの導入による状況の変革を図った。
同社では、このプロジェクトのコンセプトを「快・協・創・玄」と表現する。それぞれの漢字は、「オンデマンドとスピーディ(快適)」「コラボレーションとフィーリング(協働)」「セルフネットワーキングとエボリューション(創発)」という3つのステップと、そこから作り上げられるナレッジワーカー的な要素を持つプロフェッショナルサービスグループ(玄人集団)を表したものだ。
このコンセプトの実現に向けて、損保ジャパンがとった方法は次のようなものだった。