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経営全体に波及するIFRS
国際財務報告基準(IFRS)ではさまざまな基準が検討されている。すでに国際会計基準審議会(IASB)によって設定されている基準もあるが、まだIASBと米国の会計基準団体などとの調整レベルのものも数多く存在する(「MOU項目」)。
ここで言うMOU項目とは、IFRSと米会計基準との間で、会計の処理基準で大きな差異が存在するために、その差異をどのように収斂させるかを検討するという“覚え書き”が交わされていることを指している。
だが、いずれも財務の数値や財務諸表の体系にインパクトを与える内容となっており、経理・財務関連プロセスはもちろんのこと、営業、R&D、人事、経営企画など、その影響範囲は多岐にわたることが想定されている。企業の基幹業務そのもの、さらには経営全般にわたってさまざまな影響があるのだ。
具体的には、IFRSの中では収益認識、企業結合会計、セグメント、外貨換算、R&D、固定資産会計などがある。またMOU項目としても財務諸表の表示、退職後給付、収益認識、リース会計などが上げられる。
一方で、IFRSは世界会計基準ではあるが、日本には日本の会計基準がある。その差異によって、日本の企業には独自の影響も考えられる。
経理業務である決算業務や内部統制はもちろん、営業業務、R&D業務、固定資産管理、さらには経営全体にかかわる中期経営計画や財務制限条項、給与制度など、いろいろな点からの見直しが必要となる。売り上げの考え方が変われば、営業プロセスや営業システムの見直しも必要になる。
また、IFRSでは固定資産関連のさまざまな基準が入るため、固定資産の業務やそのシステムも見直す必要がある。たとえば、収益認識の会計基準の変更により、売り上げに対する考え方が変われば、中期経営計画などの売上目標も変更しなくてはならないからである。また、社債を発行している企業は財務制限条項(Financial Covenants)により、財政状況がある一定数値を下回った場合には社債を早期償還しなければならないという決まりがあるが、これも見直す必要がある。
米企業はIFRSにどう対応するのか
以上は日本企業の事情だが、米企業は日本企業に比べて、さらにIFRSへの対応を急ぐ必要がある。財務報告が3年併記のため、IFRS義務化が2014年であっても2012年、2013年の財務諸表もIFRSで開示する必要があるからだ。そこでアクセンチュアは2008年12月、米国の大企業二百数十社にIFRSに関するアンケート調査を行っている。
まずIFRSの適用(Adoption)、つまり導入期間については「2年または2年以上かかるであろう」と答えた企業が半数以上を占めた。IFRS適用は幅広い影響があると見ていることを如実に表している。半数以上の企業が、そう簡単にはIFRSの適用ができないだろうと見ている。
また、IFRS適用に関わるコストについては「1000万ドルから5000万ドル」、つまり日本円では10億円から50億円がかかると見る会社が半数以上を占めており、かなり多額のコスト投資を見込んでいる。経理部門の担当者のいわば“小手先”の作業で対応できるものではないという認識だ。