「違和感はそれほどなかった」――。サーバやメインフレームをはじめとするITインフラストラクチャの分野に詳しい、ガートナー ジャパンのバイス プレジデント兼最上級アナリストの亦賀忠明氏は、OracleによるSun Microsystems買収にそれほど驚くことはなかったという。というのは、全世界的に進むITインフラストラクチャの潮流から見て当然のことだからとしている。
「OracleとSunを含めて業界全体として、個別製品の闘いからシステム全体の闘いへという流れになっている」
亦賀氏によれば、2001年にドットコムバブルが崩壊する前までは、オープン系システムが圧倒的な主流だった。しかし、ドットコムバブルが崩壊してからは、オープン系システムは行き詰まりを見せた。ユーザー企業は個別製品ではなく、ハードウェアからソフトウェアまでのすべてを“システム”として要求するようになっているからだ。ベンダーとしては、ユーザー企業にどれだけ魅力的な“システム”を提供できるかが問われるようになっているのである。
つまり今は「製品をバラバラに売っていく時代ではない」。今回の買収劇も、システム全体の闘いの時代という流れにおいて見ると「“突然変異”ではない」という見方ができるのも当然である。
「今回の買収で、短期的視点から『なぜオラクルが?』という疑問を感じることもあるようだが、たとえばJavaやSPARCといった個別製品だけを狙って買収したわけではない。Sunを買収することで、Oracleのポートフォリオ全体が長期的に高まることになる」
Oracleも含め、IBMやHewlette-Packard(HP)といったビッグベンダーは今後5〜10年といったレンジでユーザー企業が要求する“システム”を構成するポートフォリオの拡充を続けていくだろうと亦賀氏は見ている。「たとえばの話として」亦賀氏はこう続ける。「Oracleはネットワーク分野に強くないので、ネットワーク製品のベンダーを買収することもあり得るだろう」。いずれにせよ、OracleやIBM、HPといった「グローバルなメガコンペティションを展開するベンダーは、買収を考えている」。
ユーザー企業が要求する“システム”を提供するためにビッグベンダーはポートフォリオの拡充を図る――。こうした視点から見たとき、IBMがSunとの買収交渉を進めていた事態について、亦賀氏は違和感を感じたようだ。
「IBMとSunとではポートフォリオがバッティングする部分がある。一方のOracleはポートフォリオでバッティングする部分がなく、相互補完できる。Oracleはこれまでの買収を見ても、きちっとポートフォリオを考えて買収を行っている。Sunの従業員にとっては、IBMに買収されるよりはOracleに買収された方がよかったのではないか」
日本企業はもちろん世界中の多くの企業がグローバルな競争を展開している。その流れの中で、ITベンダーとして個別にハードウェアやソフトウェアをユーザー企業に提供しても、ユーザー企業の要求には応えきれない。“システム”として製品をユーザー企業に提供し続けていくために、IT業界の再編は今回を契機にむしろ加速されていくのかもしれない。