インプットかアウトプットか--進捗度管理はプロジェクトの見極めが重要(後編)

木村忠昭(アドライト)

2009-04-03 08:00

前編はこちらです

 工事進捗度の見積もりについてどの方法を選択するかは、企業ごとに委ねられているが、進捗の実態を適切に反映する方法をもって見積もる必要がある。進捗度の見積もり方法をプロジェクトによって使い分けることは原則として認められておらず、一つの企業につき、一つの見積もり方法を選択しなければならない。

 このような工事進捗度を見積もるために用いた方法は、注記事項として開示することが求められる。投資家をはじめとする利害関係者(ステークホルダー)から見れば、どの方法を用いて進捗を見積もり収益を認識しているのかは、財務諸表を理解し意思決定を行ううえで重要な情報であるからだ。

図

プロジェクトの性質を見極めて選ぶべし

 このように、工事進捗度の見積もりは、複数の方法が認められている。どの方法が適切かは一概には判断できず、あくまで開発の進捗度合いの実態を反映する方法が望ましいといえる。それでは、各方法のメリットとデメリットを考えながら、それぞれの方法が適する状況を見ていこう。

 まず原価比例法だが、進捗度を簡単な計算式で見積もることができ、また方法がシンプルであるが故に、恣意性が介入しづらい。原価比例法では全体に対する原価の費消割合で進捗度を見積もるため、工事進捗度を不適切に見積もり、たとえば、その期の進捗度を実際よりも多めに算定して期間利益をかさ上げしたり、逆に次の期以降に利益を持ち越すために進捗度を少なめに見積もる――などの不正が起きにくく、対外的にもその進捗度を客観的に示すことができる。

 ここで、原価のうち一部を抽出して集計することで、進捗度を見積もるような方法は、その原価の抽出に恣意性が介入してしまう危険性があり、原価比例法としては認められない。そのため、高額の材料や部品の購入、高額なソフトウェアのライセンスの供与を受ける開発プロジェクトの場合、原価比例法を採用すると、特定の高額費用の発生のタイミングで進捗度が大きく動いてしまい、実態と乖離してしまうおそれがある。そのため、このような性質のプロジェクト開発を行う企業は、原価比例法以外の方法の採用を検討する必要がある。

客観的な詳細ルールの整備が必要

 他方で、EVMをはじめとするアウトプットをベースに進捗度を見積もると、開発プロジェクトの進捗度合いを出来高でとらえる、実態を反映しやすいというメリットがある。一方で、開発プロジェクトの出来高を全体に対する進捗の割合で定量的に把握することになるため、その定量化のための適切な運用体制の構築が求められる。

 具体的には、開発の進捗においていくつかの到達ポイントを定め、そのポイントにおける進捗度合いを設定して進捗度を見積もる手法や、工程ごとに重み付けをして、それらを累積して進捗度を見積もる手法などがある。これらは、開発全体を一定の基準でフェーズやプロセスに細分化できるような性質のプロジェクトに適していると言える。いずれにせよ、この到達ポイントの設定や工程の重み付けの際に、前述のような不正が介入しないよう、客観的な詳細ルールを整備し、対象となるすべての開発プロジェクトに適用されて運用する必要がある。

 このように、それぞれの方法のメリットとデメリットを理解したうえで、各社にとって開発の進捗度合いの実態を適切に反映する方法を選択し、プロジェクトの進捗を見積もり工事進行基準を適用していく必要があるのだ。もちろん、工事進行基準適用における工事進捗度の見積もりに原価比例法を採用した場合にも、開発現場でEVMなどの開発管理手法を用いて開発作業を管理することは自由に行うことができる。ただし、開発プロジェクトをインプット(費用)とアウトプット(出来高)の両面から並行して管理する場合には、これらが大きく乖離していないことが、原価比例法を用いて工事進捗度を見積もるための前提になることを忘れないでほしい。

 今回までは、実際に工事進行基準を適用する際に求められる「成果の確実性」を満たすための三つのポイントについて、会計基準の内容と実務上の対応をまとめてきた。次回以降は、関連するテーマとして、会計監査対応の留意点やソフトウェア業界での分割検収や複合取引といった論点について説明していこう。



木村氏
筆者紹介

木村忠昭(KIMURA Tadaaki)
株式会社アドライト代表取締役社長/公認会計士
東京大学大学院経済学研究科にて経営学(管理会計)を専攻し、修士号を取得。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。
2008年、株式会社アドライトを創業。管理・会計・財務面での企業研修プログラムの提供をはじめとする経営コンサルティングなどを展開している。

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