「オープンソースとセキュリティの重要性が高まる今が出番」
日本企業が支援するプロジェクトチームと日本人の技術者によって提案されたセキュアOSが、Linuxカーネルに統合される意義は、さまざまな側面から見ても大きい。
メインライン化の先で、TOMOYO Linuxの成果は、今後どのように生かされていくのだろうか。山田氏に今回の成果への評価とともに、ビジネス展開の予測を聞いた。
「当社がこれまでも力を入れてきたオープンソースと、今日ますます重要な技術分野となっているセキュリティの2つの領域において、技術開発本部が培ったTOMOYO Linuxの成果が国際的に認められたことはたいへん嬉しいことだ。メインラインに正式に入った暁には、TOMOYOのメンバーに『ご苦労様』といいたい。
メンバー自身はもちろんだが、それ以上にソニーの上田さんやカーネル読書会の吉岡さんを始めとするコミュニティの方々の応援があったからこそ、ここまでがんばれたと思っている。そして、これらの方々に恵まれたことが、TOMOYOの幸せでもあったと思う。
メインライン化のその先では、ビジネス展開へのチャレンジも考えている。
UNIXとRISCから、Windowsとインテル、さらにはオープンソースとインテルへのプラットフォームの移行は、われわれの市場でも本格的に始まっており、オープンソースベースで、アプライアンス的なマーケットは、今後、さらに広がっていくだろう。
そして、もうひとつはクラウドだ。クラウドをハイプだという説もあるが、いわゆるクラウド的なシステム構築は、インテルベースのサーバが標準になってくれば必然となってくる。その中で、ライセンスを意識せずに使えるオープンソースは、適用領域がますます広がっていくだろう。
その意味でも、オープンソースの重要性は今後も高まっていくはずだ。そこにはセキュアOSの出番があると思っている。その領域でTOMOYOを使っていただけるよう、トライしていきたい」
「『Linuxの生態系』の中で生き残り、新たに進化していくことが今後の課題」
TOMOYO Linuxがメインラインをめざす大きなきっかけをもたらした上田氏は、TOMOYO Linuxの現状と課題について次のように語った。
「Linus Torvalds氏は、『Linuxは進化である』という。また、SCSIメンテナのJames Bottomley氏は、OLS2007でのプレゼンテーションの中で、『進化は多様性から生まれる』と語った。
彼らのたとえを借りれば、私が進めているCE Linux Forumの活動とは、組み込み用の遺伝子をLinuxの中に埋め込んでいくことだといえるだろう。
これまでもLinuxでは、さまざまなチャレンジが行われてきた。その多くが淘汰される中で何かが残り、その繰り返しの中で、最後まで残ったものだけがLinuxの中に定着し、次のLinuxとして引き継がれていく。このいわば『Linuxの生態系』の中では、使われ、新たに提案され、進化していかなければ、たとえメインラインに入っても淘汰されてしまう。
TOMOYO Linuxは、今、この『Linuxの生態系』の入り口に立ったばかりだ。その意味で、TOMOYOの未来は今後、TOMOYO Linuxを使った人たちが、それに対する評価や提案をコミュニティに向けていかに発信してくれるかどうかにかかっている。
それはもはやプロジェクトチームやNTTデータだけの問題ではない。これまで以上に周囲を引き寄せ、新たに進化するためのコミュニティを育成していかなければならないということだ。
一方で、メインラインに入るということは、全世界がその対象となり、コミュニティはさらに大きくなっていく可能性も含んでいる。その流れをいかに作っていくかが、今後の大きな課題になるだろう」