トップインタビュー

SAPの戦略トップが語る2025年--体験データ、SaaSとの統合、ユーザーインターフェース

末岡洋子

2019-05-20 06:00

 5月9日まで開催されたSAPの年次イベント「SAPPHIRE NOW 2019」では、「エクスペリエンスデータ(x-data)」という新しいキーワードが出てきた。一方、データベースの「HANA」もクラウドに拡大しており、SAPはどこに向かっているのか――SAPで全体戦略を練るエグゼクティブバイスプレジデント兼最高戦略責任者のDeepak Krishnamurthy氏に話を聞いた。

SAP エグゼクティブバイスプレジデント兼最高戦略責任者のDeepak Krishnamurthy氏
SAP エグゼクティブバイスプレジデント兼最高戦略責任者のDeepak Krishnamurthy氏

--SAPPHIRE NOWでは、中核事業のERP周辺の話があまり聞かれなかった。SAPはどこに向かっているのか。

 戦略的な優先順位は大きく3つある。最優先にしているのは「インテリジェントエンタープライズ」。ここにはS/4 HANA、ERP、古いECC(SAP R/3など)からの移行、Ariba、SuccessFactors、ConcurなどのLOB(Line Of Business)クラウドアプリケーションの統合が含まれる。顧客がインテリジェントエンタープライズを実現できる製品やサービスを構築し、実行に移すこと、そして、顧客がオンプレミスの世界からクラウドの世界に移行するのを支援することにある。

 デジタルサプライチェーン、インダストリー 4.0もインテリジェントエンタープライズの一部で、ここでの戦略実行も進めていく。(PaaSの)「SAP Cloud Platform」はマスターデータのインテグレーションのためのビジネスプラットフォームとなる。

 2つ目が体験管理(XM)とカスタマー体験(CX)。XMから説明すると、顧客が欲しがっているのは単なるERP、CRMといった製品ではなく、自社の顧客に素晴らしい体験を提供するのを支援する製品だ。企業はどこも「体験」で課題を抱えている。買収したQualtricsがこの課題解決を支援する。SAPPHIREの基調講演では、体験のデータとして「X-data」を紹介したが、SAPシステムにある運用のO-dataに、これを加える。これは大きなフォーカスとなる。体験は企業の競争優位性で重要になる。

 市場を崩壊させる企業は、体験で成功している。既存企業は体験で新規参入に対抗している。勝敗は、顧客の望む体験を理解し、それを提供できるかにかかっている。体験のギャップを理解し、戦略にして実行できている企業は少ない。QualtricsがSAPにとってゲームチェンジャーなのは、水平方向のプラットフォーム技術であることだ。最もメリットを受けるのはC/4 HANAだが、SuccessFactorsなどSAPの製品全体がメリットを受ける。

 XMが人からのフィードバックによってエンゲージを強化する部分であるのに対し、CXではCRMやECシステムとサプライチェーンやERPとの統合を行う。

 3つ目はクラウドでの「HANA」で、SAPPHIREで発表した「SAP HANA Cloud Services」となる。HANAをクラウドでサービスとして提供するもので、ハードウェアが不要なため安価にスタートできる。これにアナリティクス機能、ディスクストレージ、ガバナンスのための「Data Hub」などを加える。これにより、包括的なビッグデータソリューションになる。

SAPが描くインテリジェントエンタープライズ。2019年は体験の「X」が加わった
SAPが描くインテリジェントエンタープライズ。2019年は体験の「X」が加わった

--売り上げの比率はどうか? ERP関連が多くを占めると思うが、将来の売上比率はどう変化すると予想しているのか。

 現在は1番目のインテリジェントエンタープライズが大きい。将来もこれは変わらないだろう。急速に成長しているのは2番目のCXそしてXM。市場そのものが急成長している。3番目は、「エネーブラー」であり、SAPのさまざまな技術を結びつける役割となる。

--SAP ERPを利用する既存顧客を2025年までにS/4 HANAに移行してもらおうとしている。見通しはどうか。

 S/4 HANAを考える時に、「新しいデータベースだから」「新しい製品だから」というのではなく、顧客が得られる価値を考えてもらうようにしている。どのような価値かといえば、低コスト、ユーザー体験、RPA(Robotic Process Automation)などビジネスプロセスの自動化などが挙げられる。これにより、ROI(投資利益率)を迅速に得られる。

 もう一つ考えるべきは、デジタルトランスフォーメーションの文脈だ。ここではクラウドやS/4 HANAという問題ではなく、人工知能(AI)、機械学習などを活用したプロセスを考え直す必要がある。しっかりしたデジタルトランスフォーメーションのイニシアチブを持っている顧客は、S/4 HANAをインテリジェントエンタープライズの土台として見ている。XMが加わることで、さらにデジタルトランスフォーメーションの土台としての魅力が強くなった。どのようなことが可能なのかを見せることができれば、移行が必須であることが分かるだろう。このようにS/4 HANAへのアップグレードは、テクニカルなアップグレードではなく、ビジネスプロセスや文化を変えることだ。

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