日本マイクロソフトは6月25日、各業種におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する日本独自のパートナープログラム「MPN(Microsoft Partner Network) for Industry」を発表した。既に92社が参加を表明しており、金融、流通、製造、ヘルスケアの4業種でMicrosoft Azureを基盤とするリファレンスアーキテクチャーの提供や、パートナー企業によるサービス開発、技術者の育成といった活動を行うという。同社執行役員 常務 パートナー事業本部長の高橋美波氏「われわれのネットワークにとどまらず、エンドカスタマーと連携して技術革新や生産性向上を目指す」と、同プログラムの主旨を説明した。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 パートナー事業本部長の高橋美波氏
MPN for Industryは、業種特化型のパートナープログラムで、人工知能(AI)やIoTなどを活用した業種ごとに最適化したソリューションをリファレンスアーキテクチャーとしてパートナー企業に提供し、各リファレンスアーキテクチャーを基盤としたサービス開発と技術者育成の支援を目的としている。
顧客の新規事業開発やDXを推進するシステム構成に必要な機能要件をまとめた「業務ファンクションマップ」、機能要件をアーキテクチャーへ落とし込みデータ構造の標準化や運用方法に関するホワイトペーパーの「アーキテクチャマップ」、アーキテクチャーやデータ構造に基づいてMicrosoft AzureやMicrosoft Dynamics、Microsoft TeamsなどMicrosoft製品によるサンプル実装例となる「サンプル実装」の3要素から構成される。日本マイクロソフトとパートナー企業は、共同で市場施策を展開し、同業他社に対して差別化した新規事業開発を通じて、DX実現に向けた顧客支援を行う。
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製造向けには2019年第3四半期から、協働ロボットやセンサー、PLC/DSCなどをつなげるAzure IoTとMixed Reality、Microsoft Teamsなどのチームコラボレーションを接続して、ファーストラインワーカーのスキル強化を支援し、IoTのデジタルデータと情報や知識を融合させる「Factory of the Future」、センサーやネットワーク、環境知能を使用して自律的なサプライチェーンを構築し、複雑な製品ポートフォリオとサービスの提供を簡素化する「Intelligent Supply Chain」、販売とサービスチャネル全体の顧客満足度を多方面から高めることで“サービスとしての製品”を実現する「Product as a Service」の提供を予定している。
流通向けには、キャッシュレスによるスマートフォン決済や、数百万の商品在庫を数百店舗で一括管理する商品マスターおよび商品トランザクション管理など、店舗ビジネスにおける主要な業務シナリオに対応する「Smart Store」を提供している。さらに、顧客の商品認知から購入までのストーリーを支援するマーケティングオートメーション(MA)やデジタルマーケティングなどのソリューションに対応する「Smart Online」と、製品調達から入庫管理、配送までデータを収集し、市場投入までの期間を短縮するサプライチェーン最適化ソリューション「Intelligent Logistics」の2つを2019年第3四半期から提供する予定だ。
金融向けでは、2019年第3四半期にパブリッククラウドの活用を推進に必要な基盤機能となる「Financial Cloud Fundamentals」、キャッシュレス時代のあらゆる経済活動データを活用する銀行向け「Intelligent Banking」、顧客の一生涯にわたる生活・健康全体を支える生命保険向け「Intelligent Insurance for Life」の提供を予定する。
ヘルスケア向けは、医療情報システムや各種データベースなどの相互運用性を向上させ、コンプライアンス準拠されたヘルスケアデータの利活用を推進する「Future Hospital」を2019年第4四半期から提供するほか、創薬における分子シミュレーションや物質情報の探索を高速で行えるクラウド基盤および産官学一体の新薬開発を実現するためのコラボレーション基盤となる「R&D Innovation」を2020年第1四半期から提供するとしている。
MPN for Industryの参画要件は「コミュニティー」「プラチナ」「ダイヤモンド」の3段階に分かれており、支援内容や特典などが大きく異なるという。同社は、このプログラムを通じてサービス開発期間の短縮や運用・保守コストの削減、迅速なビジネス展開が可能だとし、今後は政府・自治体、教育観、交通・サービス、エンターテインメント・メディアといった業種にもアーキテクチャーの開発を進めるという。
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今回のプログラムに参画する大日本印刷は、「マチナカ」「ミセナカ」「イエナカ」における流通の課題を分類し、例えば、商品スキャンの簡便化は各種コードと画像認識、レジ業務の負担軽減にはPOSアプリケーションを経由した在庫・発注を行う。参画理由について執行役員 情報イノベーション事業部長の沼野芳樹氏は、「日本マイクロソフトのパートナー企業は多彩で、Microsoft Azureのセキュリティーも堅牢で、ブロックを組み立てるように機能連係と短期間の開発ができる。(プログラムを日本マイクロソフトが)用意したことでとっても乗りやすい」と語った。
大日本印刷 執行役員 情報イノベーション事業部長の沼野芳樹氏
また、富士フイルムはヘルスケアの区分でMPN for Industryに参画する。自社のAI技術である「ReiLI(レイリ)」とMicrosoft Azureを活用し、医療機関で稼働している医療機器の内視鏡予知保全サービスを2019年中に展開する予定で、同社は保守作業の効率を最大で10倍まで向上できるとし、今後はX線画像診断など多岐にわたる医療現場の支援ソリューションを目指すという。プログラムへの参画理由は、「メディカルではセキュリティーが重要視される。グローバルに展開するMicrosoft Azureの優位性も大きなポイント」(富士フイルム R&D統括本部メディカルシステム開発センター長 兼 メディカルシステム事業部 ITソリューション部長の鍋田敏之氏)と説明している。
富士フイルム R&D統括本部メディカルシステム開発センター長 兼 メディカルシステム事業部 ITソリューション部長の鍋田敏之氏
日本マイクロソフトの高橋氏によれば、同社のクラウドサービスプロバイダービジネスは堅調で、共同受注は1100件を突破し、売り上げも昨年対比116%、法人向け売り上げにおけるパートナー経由の割合は95%に及ぶ。「競合他社もパートナープログラムを体系化している。われわれのパートナープログラムも新しい次元へ押し上げ、スタートアップなど100~200社のリクルートを考えている。(新プログラムは)エコシステム強化の第一歩」(高橋氏)と語った。