近年、電子商取引(EC)の普及などにより、小売店舗のあり方も変わってきている。その中で注目を集めているのが、店舗におけるディスプレイの効果を数値化するトラッキングカメラシステム「ESASY(エサシー)」だ。ESASYは、カメラで撮影した映像から「店舗前交通量」「入店数」「視認数」を年齢・性別ごとに集計。それにより従来、販売員が自身の経験や感覚をベースにしていたディスプレイをデータに基づいてできるようになるという。
ESASYを開発・提供するのはクレストという企業。同社は元々、ITと縁のない屋外看板会社だった。だが2代目の永井俊輔氏が代表取締役社長に就任後、マーケティングオートメーション(MA)や顧客情報管理システム(CRM)などで看板事業を伸ばし、2017年から小売事業にITを活用する“リテールテック”事業を開始。ESASYは現在、アパレルや飲食店、アミューズメント施設など、多くの小売店で導入されている。そこで今回、クレストのリテールテック事業やイノベーションの着想源について、永井氏に話を聞いた。
クレスト 代表取締役社長の永井氏
ーー看板事業に加え、リテールテック事業を開始した背景を教えてください。
新卒でベンチャーキャピタルに入社し、バイアウト部門で働いていました。ですが、父親(先代の社長)が仕事に厳しい人物で「すぐに戻って来なさい」と言われ、入社から約半年でクレストに移ったんです。仕事をする中で、実店舗の看板やウィンドウディスプレイのシェアは着実に広がってきました。
話は変わりますが、ある書物によると看板の歴史は西暦830年からあるそうです。つまり、1200年近くの歴史があるとてもレガシーな業界なのです。ただ800年代の看板には、何屋さんかを表示させる概念はなく、食べ物や武器など「売っているもの」だけが絵で描かれていました。鎌倉時代後期になると識字率の向上により、商品名に加えて店名が文字で書かれるようになります。そして江戸時代には版画などが流行し、アートの要素が看板にも入ってきます。看板照明の原型といえる「行灯(あんどん)」も既にありました。
つまり、現在の看板は江戸時代から何も変わっていないといえます。これまで「情報」「文字」「アート・照明」と3回のアップデートが行われてきました。そして僕は看板事業を行う中で、4度目のアップデートは何なのかをずっと考えてきました。そして、あらゆるものがIT化する現代に合ったアップデートとして、リテールテック事業を始めました。ESASYは、自動販売機の顔認識機能から着想を得ました。
ーーITの知識は、元々あったのでしょうか。
ありませんでした。なので本をたくさん読んで、いろいろなITツールを分からないながらも会社に導入しました。やらざるを得ない状況を自ら作ってそこに身を置くことで、人は努力するようになるのだと思います。
ーー「ABEJA Insight for Retail」など、競合サービスとの違いを教えてください。
製品としての違いは、画像や動画を取得しない点です。ESASYは、撮影したものをリアルタイムでデータ化しているので、画像や動画はサーバーに送られません。
会社としての違いは、元々看板屋だったという点です。看板事業を通して小売企業の顧客をたくさん持っていますし、数多くの看板やウィンドウディスプレイをデザインしてきたので、リテールテック事業でもデザインの部分までアドバイスできます。この点では、クレストが元々持っていたレガシー(遺産)を活用できていると思います。
また、クレストホールディングス(クレストが2019年8月1日に持ち株会社として設立)傘下の企業インナチュラルでライフスタイルショップ「IN NATURAL」を持っている点も差別化に当たります。新しい機能を搭載する際は、顧客企業へ提供する前にIN NATURALの店舗でテストします。
ーーESASYは年齢を何歳刻みで取得し、その精度はどれくらいでしょうか。
1歳刻みで取っています。ただ、1歳刻みのデータというのは顧客企業にとってそこまで重要ではないので、5歳刻みや10歳刻みで出しています。年齢を特定する精度は、何%と具体的には言えませんが、アルゴリズムに某大手企業の顔認証技術が使われているので、かなり高いです。
ーーオプションが幾つもありますが、おすすめの導入プランを教えてください。
1店舗に対してカメラ5~8台を取り付けてもらい、店舗前交通量、入店数、棚ごとの視認数を取得するのが一般的に一番いいと思っています(カメラ1台当たり、税抜きで月額1万2800円。オプションで、導入プラン作成、施工設置、ダッシュボード作成、発送納品、導入後のコンサルティングがある)。