三陽商会は6月12日、2018年2月から自社ブランドの店舗に導入したABEJAの店舗解析サービス「ABEJA Insight for Retail」の活用状況を発表した。データ活用によって店舗レイアウトの最適化や接客キャパシティーの最大化に努めてきたという。
ABEJAカスタマーサクセス責任者の丸田絃心氏は「近年、購買行動の多様化や人口減少など、さまざまな変化がファッション業界を取り巻いている。一方この業界においてもAIやIoTなどのテクノロジーが急速に発達しており、今や実店舗でもオンラインと同じぐらいのデータが取れるようになった。そのため、リアル空間から得られる膨大なデータを活用すれば、新しい顧客体験を生み出すチャンスがあるだろう」と述べた。
三陽商会の執行役員経営統括本部副本部長を努める慎正宗氏は「『実店舗とECサイトの両方で購入する顧客』の数を増やすことがこの取り組みの目標」と語った。三陽商会が自社におけるチャネル別の会員数と年間購入金額を調査したところ、「実店舗とECサイトの両方で購入する顧客」の会員数は全体の約7%と少ない一方で、彼らの購入金額は全体の約18%に上ることが判明した。加えて、顧客一人当たりの年間平均購入回数や、一回当たりの平均購入金額においても「両チャネルで購入する顧客」の方が「実店舗だけで購入する顧客」や「ECサイトだけで購入する顧客」より多かったという。
(出典:三陽商会)
三陽商会とABEJAは検証の末、購入につながる重要な要素を「回遊率」と「接客率」だと仮定。そこで店内レイアウトの最適化に向けて、自社ブランド「MP STORE」の店舗に15個の赤外線センサーを設置。これにより、店舗前のトラフィックや入店率、立止率、接客率、試着率、購入率が分かるという。両社は、棚ごとの視認率と購入率を分析。すると「視認率は高いものの購入率が低い棚」や、「視認率は低い一方で購入率が高い棚」があることが明らかになった。
慎氏は「これまで店内のレイアウトは販売員の感覚で行われており、その反響は全体の売り上げから推測するしかなかった。だがABEJA Insight for Retailによって、棚の勝ち負けが数字で分かるようになった」と述べた。
(出典:三陽商会)
同店舗では「顧客に一番見られる店の入り口にある棚の購入率が上がると、店舗全体の売り上げも増加する」という仮説のもと、分析結果からレイアウトを定期的に変更。その結果、⼆⼦⽟川ライズS.C.店では、入り口にある棚の週平均売り上げが2.3倍、購入率が3倍、店全体の売り上げが1.7倍、購入率が1.2倍になったという(いずれも週平均)。
一方、三陽商会のセレクトショップ「LOVELESS」の店舗では、接客キャパシティーの最大化に取り組んだ。ある一日の来店数は、青山店が78人、船橋店が249人と船橋店の方が圧倒的に多かったが、購入件数は青山店が12件、船橋店が8件と船橋店が青山店を下回っていたという。この結果を分析したところ、販売員一人当たりの接客人数に課題があることが判明した。青山店は旗艦店ということもあり販売員が8人いる一方で、船橋店は3人。そのため、青山店は販売員一人につき約11人接客すればよいのに対し、船橋店は83人接客しなければならず、販売員の負荷が大きかった。
(出典:三陽商会)
小売店では、売り上げに対して人件費を15%以下に抑えないと利益が出ないとされているため、これまで三陽商会では売り上げありきで販売員の人数を決めていた。だが、このデータから慎氏は「船橋店の販売員の人数を10人にしたら、接客率が3倍になり購入件数が増えるのではないか」と着想。そこである週末、LOVELESSの他店舗で勤務する販売員に船橋店で働いてもらったところ、船橋店の接客率が2.4倍になり、売り上げが1.6倍になったという。
慎氏は「これまでLOVELESS船橋店は売り上げが高くない分、販売員の人数も減らさなければいけないと思っていたが、実際はその逆だった。ABEJA Insight for Retailによるデータがなければ『そこに人がいればもっと売れるのかもしれない』ということに気づけなかっただろう」と語った。
今後の目標について同氏は「顧客が実店舗を訪れた際、販売員のタブレットに実店舗とECサイト両方の購入履歴が表示され、過去に購入した商品に合わせる新商品を販売員が提案できる仕組みなどを作っていきたい。現在ECサイトで行われているサービスを実店舗でも提供することを目指している」とコメントした。