日本マイクロソフトは9月24日、政府機関・自治体などを対象に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する「デジタル・ガバメント統括本部(DG統括本部)」を新設したことを発表した。政府・行政機関、ヘルスケア、教育機関を範囲とするパブリックセクター事業本部の直下に位置付ける。
同日の記者会見で執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤知成氏は、中央官庁・自治体におけるクラウドを活用したシステムの実現や、常に安全性を確認するセキュリティモデル「ゼロトラストセキュリティ」の浸透、顧客とともにソリューションを作り上げる共創型提案でいち早くデジタル政府化した英国と比べ、「日本は7年の開きがある。DG統括本部を中心に短時間で追い越す」との意気込みを語った。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤知成氏
日本マイクロソフトのパブリックセクター(公共部門)事業本部は、2018年1月に現在の佐藤氏が着任してから、ヘルスケア(病院や製薬)や教育(高等教育機関や教育委員会)、政府・行政(官公庁や地方自治体など)向けに、同社製品・ソリューションを活用したビジネスに注力してきた。佐藤氏は、政府の「クラウド・バイ・デフォルト」の原則に応じる形で、同年10月に「公共機関向けクラウド利用促進プログラム」を立ち上げたが、既に中央官庁、自治体、外郭団体でMicrosoft AzureやOffice 365、Dynamics 365の利用が始まっており、「1年足らずで非常に多くの実績が出ている」という。
この進展を加速させる上で、「重要なのが国民視点。クラウドやAI(人工知能)に代表されるデジタル技術で市民生活を向上できるか」(佐藤氏)との観点から、同社では2019年7月からDG統括本部の立ち上げを準備してきた。9月からは中央官庁・自治体向けのアカウントチームが25人、業界ソリューションのクラウドアーキテクト(設計者)グローバルエキスパートが10人の合計35人で活動を開始する。
DG事業本部の責任者を務める業務執行役員 パブリックセクター事業本部 DG統括本部長の木村靖氏は、パブリックセクター事業本部で官公庁などを担当していたが、その間に一つの気付きがあったと語る。「ある副知事と話していたところ、『自治体内でデジタル人材を育成し、デジタル人材を差配するためのCDO(最高デジタル責任者)が必要』だと述べていた。残念ながら日本は良い事例が少ないため、先行する都市行政の事例や政府・自治体のDXに直接関わったグローバルの担当者をメンバーに加え、事例紹介や人材育成プログラムなどを提供する」(木村氏)
日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏
具体的には、10月25日に政策担当者向けの「DGフォーラムセミナー」の開催を予定し、「中央官庁の働き方改革」とのサブタイトルを付けている。さらに11月には、IT担当者向けの「DGフォーラム朝会」の開催も予定。同社は各フォーラムを通じて、デジタル人材の育成事例を共有し、DXを実現した顧客との交流機会を創出していく。また、地方公共団体向けハイブリッドクラウド環境として、Microsoft Azure Stackを採用した「NEC 公共IaaS」の提供を9月4日に開始した。
冒頭での佐藤氏の発言にある“7年遅れ”について同氏は個人的見解と前置きしつつ、「英国政府が2011年にクラウドへ移行した理由の1つが、データセンターの乱立によるコスト増加だと聞いている」と話す。その上で「日本は豊かだった。クラウド・バイ・デフォルトで30%のコスト削減を打ち出しているが、余剰予算をAI技術で市民の利益増に利用できる」(佐藤氏)と説明する。
DG統括本部の概要(出典:日本マイクロソフト)
DG統括本部の木村氏も、これまでの取り組みを振り返りつつ、「IaaSの『リフト&シフト』の文脈では進まず、市民の利便性を向上させるには、PaaSやSaaSを使って迅速にデータを活用したサービスを提供することがサービス変革につながる。Microsoft Azure、Office 365、Dynamics 365と3つのクラウドを活用し、パートナーと協業においてもリファレンスアーキテクチャーの提供を予定している」と今後の取り組みを語った。