デジタルフィードバックで「2025年の崖」を超えるべし--マイクロソフトのクラウド戦略

阿久津良和

2019-10-21 07:00

 日本マイクロソフトは10月18日、Microsoft AzureやMicrosoft 365、Dynamics 365など「Microsoft Cloud」サービスの最新動向に関する説明会を行った。

 Microsoftは、5月に米シアトルで開催した開発者向けのカンファレンス「Build 2019」以降、“3つのクラウド”(当時はAzure、Dynamics 365、Power Platform、Microsoft 365の4つを指したが、現在ではDynamics 365とPower Platformを一体的に表現しつつある)をキーワードに掲げ、「ただデータを保存するのではなく、活用するクラウドエンジンがMicrosoft Azure、Microsoft 365、Dynamics 365。データを有機的につなげて顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる」(ビジネスアプリケーションビジネス本部長の大谷健氏)と意気込みを語った。

日本マイクロソフト ビジネスアプリケーションビジネス本部長の大谷健氏
日本マイクロソフト ビジネスアプリケーションビジネス本部長の大谷健氏

 同社は現在、クラウドプラットフォームのMicrosoft Azure、そして、Windows 10、Office 365、Enterprise Mobility+Securityをクラウド統合ソリューションとして位置付けたMicrosoft 365、クラウドビジネスアプリケーションのDynamics 365の3つを主軸としたビジネスを推進している。

 一方で経済産業省は、クラウドソリューションと相反するようなオンプレミス環境の課題を「2025年の崖」と表現し、警鐘を鳴らす。2025年までに技術的負担がIT部門予算の9割に達し、IT人材不足が43万人に膨らむとする。その環境が継続する間の経済損失は年間12兆円にも及ぶと予測している。大谷氏は、「あくまでワーストケースを想定したシナリオだが、現時点でIT人材不足は17万人ともいわれている。このまま放置すると日本企業のDXは危機を迎える」と述べ、解決策は「デジタルフィードバックループが鍵を握る」と説明した。

 大谷氏の提唱するデジタルフィードバックループは、「従業員にパワー」を提供しながら「顧客とつながる」、そして「業務の最適化」を図りながら「製品の変革」につなげるというコンセプトモデルだ。人や顧客、業務や製品といった4つの領域から収集したデータを中央に集め、分析から得た洞察をもとに行動し、各領域に還元するという。

 同社の方向性は、データが主役となるようにMicrosoft Azureがプラットフォームを築き、分析を担うPower BIやデータを活用したアプリケーション開発を可能とするPowerApps、ノンコーディングで作業を自動化するMicrosoft Flowの3サービスを組み合わせた「Power Platform」を乗せるというもの。いずれもビジネスやITの基本的な知見を持つ「パワーユーザーがいればDXを推進できるプラットフォーム」(大谷氏)といえる。

 一見すると、3クラウド(Azure、Microsoft 365、Dynamics 365+Power Platform)は独立した存在のように映るが、「顧客が持つ資産=データに境界線があってはいけない」(大谷氏)との観点から、Power PlatformはMicrosoft Azureで「Common Data Service(旧Common Data Model)」という枠組みを設けて、Office 365やDynamics 365からデータの保存や管理を保護する仕組みを用意している。

 Microsoftは、2018年9月にAdobeやSAPとの提携を発表し、Common Data Serviceを「ODI(Open Data Initiative) Partner Advisory Council」に組み込むことを表明してきた。このようにMicrosoft製品に限らず、ODIに参画する企業のアプリケーションやSaaSから得たデータを「活用できる状態にしないとDXが加速しない」(大谷氏)としている。記者が別の機会に取材した際、同社の関係者は「2020年度はPower Platformに注力する」と述べていた。

Power Platformにおける3つのソリューションの概要 Power Platformにおける3つのソリューションの概要
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 Microsoft Azureに関して同社では、自身の価値として「Be future ready(将来に備える)」「Build on your terms(条件に基づいて構築する)」「Operate hybrid seamlessly(シームレスにハイブリッドを操作)」「Trust your cloud(信頼できるクラウド)」と4つのキーワードを掲げた。

 Build on your termsの文脈について業務執行役員 Azureビジネス本部長の浅野智氏は、「先日、顧客との会話でベンダーロックインの話をされたが、われわれはオープンにシフトしている。(他のクラウドベンダーは)われわれが過去に犯した過ちと同じように、自社クラウドの最適化に注力しているが、われわれはオープンソースソフトウェアがネイティブなままAzureで動作するように心掛けてきた」と語った。

 また、Trust your cloudの文脈では「世界各国でコンプライアンスのチェックマークを取得しているため、3カ月に1度は第三者機関の監査人がチェックを行っている」(浅野氏)と、データの安全性を強調する。そのデータも所有権の問題で多様な議論があるものの、「データの所有権は顧客にある。われわれの競争相手はテクノロジー企業であり、顧客のデータを使って自らの製品開発は行わない」(浅野氏)と自社ソリューションの信頼性をアピールした。

日本マイクロソフト 業務執行役員 Azureビジネス本部長の浅野智氏
日本マイクロソフト 業務執行役員 Azureビジネス本部長の浅野智氏

 Microsoft 365に関しては、特にMicrosoft Teamsを強調する。ビジネスチャットツールの1つとして注目を集めるが、Microsoft 365ビジネス本部長の山崎善寛氏は、「売り上げやシェアではなく、1日当たりのアクティブユーザー数(DAU)を指標にしている」と説明、同社によれば、7月時点でグローバルのDAUは1300万人、1週間当たりのアクティブユーザーは1900万人を突破した。

 当然ながら日本マイクロソフト社内でもMicrosoft Teamsを使用するが、「若いメンバーはメールではなくTeamsで会話したいという意見もある。社外の顧客をTeamsに招待し、コミュニケーションの場に利用している。共同プロジェクトを始める際も、昔はメールだったが、Teamsに招待し合うことで、スムーズなコラボレーションが可能になる」(山崎氏)した。

Microsoft Teansのビデオ会議で背景をぼやかしたデモに映る日本マイクロソフト Microsoft 365ビジネス本部長の山崎善寛氏。「Microsoft Teansはあくまでもクラウドサービス。デバイスを問わずに(スマートフォンでも)ビデオ会議を始められる」とアピールした
Microsoft Teansのビデオ会議で背景をぼやかしたデモに映る日本マイクロソフト Microsoft 365ビジネス本部長の山崎善寛氏。「Microsoft Teansはあくまでもクラウドサービス。デバイスを問わずに(スマートフォンでも)ビデオ会議を始められる」とアピールした

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