日本社会は、少子高齢化からの労働力人口の減少とそれに伴う人手不足が叫ばれて久しくなりました。その中でもIT部門、とりわけPC運用担当の人手不足は深刻です。経営者が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を叫ぶと、その取り組みのために、PCの運用現場からちょっと気の利いたエンジニアが引き抜かれてしまいます。
経営者の中には、PCの運用なんてやって当たり前、電気・ガス・水道のように毎日使えるものだと思っている人も多いのです。かといって後任がアサインされるかと言うと、なかなかありません。引き抜かれる側も昔は、「雑用は若手」と言えたのでしょうが、今は若手のエンジニアほど最新技術の習得とその活用を期待されるものです。現在は、若手がPCの運用現場に入ってくることはまれです。そして、PC運用現場に残された人は、疲弊していくばかりです。
さらに、「Windows 10」の登場によって、従来のPC運用のあり方は大きく変わりました。従来の運用であれば、設定やアプリをプリインストールしたPCを配ったら、後は使ってもらうだけで、故障があれば対応するというものでした。しかし、MicrosoftがWindows 10から取り入れた「Windows as a Service」は、継続的なセキュリティと生産性を向上するためのアップデートの運用を求めます。
加えて、「働き方改革」による働く人や働き方の多様化、それに伴うデバイスやネットワークの多様化がさらに、PC運用現場に大きな負担をもたらします。従来は会社の中にしかいなかったサポートするべき従業員は、テレワークやモバイルワークによって、どこにいるのか見当もつきません。働く時間も9時から17時の定時ではないかもしれません。PCの運用現場は、新しいサポートのやり方も考える必要があります。
それでも、「人手がないなら外注すればいいじゃない」(諸説ありますが、フランス王朝時代にマリー・アントワネット妃が「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったとか、言っていないとか)とばかりに追い詰められたPCの運用現場は、外注に活路を求めますが、これもうまくいきません。
日本のPC環境は混沌としています。「2025年の崖」(レガシーなIT環境が2025年頃に深刻な“負の資産”になるとする経済産業省の提言)と言われるように、カスタマイズ大好きな日本企業のPC環境も大いにカスタマイズされています。ニッチなアプリから、スタートメニューの並び方やタスクトレイのアイコン、壁紙までがっちり自社仕様に作り込んでいる企業もあります。
そんなグローバルスタンダードからかけ離れたPCの運用を外注しようにも、そのサービスを自社向けに特注する必要があるため、高コストになりがちです。大企業の数万台のPC運用であればコストメリットを出せますが、特に人手不足が深刻な中小企業には高嶺の花で、手が出せません。せいぜい一部の作業を外注するのが関の山です。でも、ユーザーとのやりとりや調整などは管理者が関わらざるを得ないため、結局楽になることはありません。日本企業の生産性の低さは働く人に原因のように言われますが、少なくともPCの運用管理においては、面倒を見るPCが多ければ効率が良くなるのは自明の理です。それ故、中小企業ごとのPC管理が効率的になることなんて、あるわけがないように思います。ましてや、それが企業ごとにカスタマイズされたものであれば、なおさらです。
そんな中、新しいPC運用のあり方として注目を浴び始めたのが「Device as a Service」(以下、DaaS)です。DaaSと聞くと、「Desktop as a Service=クラウドのVDI(Virtual Desktop Infrastructure)」と思ってしまう人もいるかと思いますが、ここでいうDaaSのDは、「Desktop」ではなく「Device」。Deviceの多くはPCです。つまり、PCそのものをサービスとして受けようというコンセプトです。