ガートナー ジャパンは2019年11月、年次カンファレンス「Gartner IT Symposium/Xpo 2019」を開催した。オープニングの基調講演には、米Gartnerおよびガートナー ジャパンの4人のアナリストが登壇、「『転機』を『勝機』に変える:デジタル社会におけるリーダーシップ」と題し、伝統的ITとデジタル化の均衡点であるテクウィリブリアムを軸に、CIO(最高情報責任者)とIT部門が進むべき道筋を解説した。
米Gartner マネージングバイスプレジデントのLee Weldon氏
「デジタル社会の競争を勝ち抜くためには、各社にとっての『TechQuilibrium(=テクウィリブリアム:デジタル化の均衡点)』を見つけ出す必要がある」――。最初に登壇したLee Weldon氏は、Gartnerが提唱するテクウィリブリアムについて、こう説明した。
テクウィリブリアムとは、デジタル化と伝統の適切な均衡点を指す言葉だ。均衡点は、世の中の多くのことに当てはめることができる。どのように意思決定するのか、どのように先導するのか、どのように顧客や市民に伝えるのか、どのようにデジタル社会の中で足場を築くのか――各種の場面で均衡点を見出す必要がある。
テクウィリブリアムが重要になる背景としてWeldon氏は、不確実性を生む3つの力(転換点)を挙げる。(1)地政学的シフト、(2)経済的シフト、(3)巨大デジタル企業の台頭――だ。これら3つの力がCIOにプレッシャーをかけている。「企業には両立のジレンマがある。ブレーキとアクセル、コスト削減と成長投資などだ」(Weldon氏)
第1の転換点は、地政学的シフトだ。今後、クラウドサービスなどのインフラが劇的に変化する。変化の方向は、社会の風向き、政治、税金、ルールなどに対してどう吹くかによって変わる。着目すべきは、人や資産の場所だ。どこで仕事をしているのかといった問題だ。
第2の転換点は、経済的シフトだ。2008年の金融危機では、これを好機と捉えた企業と、そうでない企業との間で差が生まれた。日本のユーザーの例では、星野リゾートが上手くいったとする。ホテルを所有せずに運営に特化し、成長した。コスト削減と投資成長を両立させた。
第3の転換点は、“デジタル巨人”の台頭だ。Gartnerの調査では、取締役の80%以上が、「デジタル巨人によって自らの業界が大きく影響を受ける」と回答している。デジタル巨人の台頭によって、全ての業界のユーザーがデジタル化に取り組むようになる。
伝統とデジタルの均衡点は会社によって異なる
基幹業務は、伝統的ITとデジタル化のバランスで成り立つ。伝統的な企業は、デジタル化にまい進している。一方でデジタル巨人は、買収などによって伝統的な業態に寄せている。デジタル社会では、伝統企業とテクノロジ企業の境目が消える。それぞれの企業が均衡点(テクウィリブリアム)を見つけなければならない。
どれだけデジタル化するべきかは、業界によって異なる。例えば、メーカーの均衡点は、政府機関やリテールバンクよりもデジタル化の度合いは低く、より伝統的なITに近い。一方、デジタル巨人も、伝統への再構築を目論み、それぞれの均衡点(テクウィリブリアム)を探っている。
Gartnerでは、企業が均衡点(テクウィリブリアム)に到達するまでに要する時間を、7年と見ている。CIO調査では、デジタル化されている売上は20%で、デジタル化されている社内運用プロセス(オペレーション)は39%であり、多くの企業は均衡点に到達していない。これに対して、世界のトップ企業は、売り上げの44%がデジタル化されており、オペレーションの62%がデジタル化されている。