AWS re:Invent

AWSに見る大手企業のコンテナー利用の現状と今後

國谷武史 (編集部)

2019-12-12 06:00

 コンテナー技術の普及とともに、大手企業ではモダンアプリケーションの稼働環境としてコンテナーを採用する動きが本格化しつつある。一方で、大手企業の多くはレガシーアプリケーションのモダナイズをどう進めるかという課題も抱える。コンテナー利用を取り巻く現状と今後について、Amazon Web Services(AWS)でコンテナー領域を担当するコンピュートサービス ディレクターのDeepak Singh氏に聞いた。

AWSの主なコンテナーサービス
AWSの主なコンテナーサービス

 AWSは、コンテナー環境としてEC2ベースの「Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS)」やオーケストレーションツールのKubernetesのフルマネージドサービス「Amazon Elastic Container Service for Kubernetes(Amazon EKS)」、また2017年からユーザーサイドのホスト管理が不要な実行環境の「AWS Fargate」も提供する。

 CEO(最高経営責任者)のAndy Jassy氏によれば、サーバーレス環境を新規導入するユーザーの42%がFargateを採用している。Fargateでは、例えばセキュリティパッチの適用といったコンテナー稼働環境の運用の多くをAWSが行うことから、ユーザーにはアプリケーションに専念できるメリットが受けているという。

AWS コンピュートサービス ディレクターのDeepak Singh氏
AWS コンピュートサービス ディレクターのDeepak Singh氏

 「事例では、金融大手のVanguardがシステムの多くをFargateに移行しており、メディア大手のTurnerではESPNをはじめとするメディアサイトをFargateで稼働している。こうしたデジタルビジネスの基盤あるいは運用の簡素化を目的にFargateを採用するケースが非常に多い」(Singh氏)

 Singh氏の挙げたVanguardは、3000万以上の投資家の5兆7000億ドル以上の資産を運用している。ITでは、5万以上のエンドポイント、2500のアプリケーション、20PBものデータがある。同社にとってITサービスのダウンタイムは、ビジネス上の死活問題になるが、同時にスタートアップ企業並みにビジネスをスピード展開することが競合優位性につながると幹部陣が判断し、コンテナー環境への大規模な移行を進めた。

 その歩みでは、当初にプライベートクラウドの導入を検討したが、構築に時間がかかり過ぎることからパブリッククラウドを選択したという。移行では、まず150ものセキュリティのコントロールポイントを設け、AWSにVPCやS3の環境を構築、移行の課程で順次データベースやコンテナー、マイクロサービスなどを導入しながらシステム環境をオンプレミスからAWSに切り替え、クラウドネイティブな仕組みに刷新した。

 これによって同社は、コンピューティングや構築のコストをそれぞれ30%削減し、逆にデプロイメントの頻度を20%向上させるスピードを実現したとしている。

VanguardにおけるAWS移行の初期段階のシステム構成イメージ VanguardにおけるAWS移行の初期段階のシステム構成イメージ
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AWS移行後のシステム構成イメージ AWS移行後のシステム構成イメージ
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 Singh氏によれば、Fargateの用途はこうしたビジネスのスピードを重視するアプリケーションが大半になる。その一方、多くの企業が課題としているレガシーアプリケーションのモダナイズによるFargateのユースケースは、まだないという。

 「アプリケーションのモダナイズは、EC2などを使って仮想化するケースが多い。コンテナー化するにも、まずはどのアプリケーションを対象にするのか、そのアプリケーションの依存関係がどうなっているのかといった準備に手間と時間をかけており、その方法も企業ごとに異なるだろう。ただ、いったんコンテナー化してしまえば、マイクロサービスへの展開は容易だ。アプリケーションのモダナイズが進むことで、ECSやEKS、Fargateの利用も増えていくだろう」(Singh氏)

 AWSは、12月上旬に開催した「re:Invnet 2019」において、Fargateの環境でEKSを利用できるようにする「AWS Fargate for Amazon EKS」を発表した。Singh氏によれば、同サービスは今後見込まれるレガシーアプリケーションのモダナイズの拡大にも対応するものだという。

 マイクロサービス化に向けては、2019年のre:Invnet 2019でマイクロVMサービスの「Firecracker」も発表。Firecrackerにおけるコンテナーランタイムのcontainerdの対応強化も進める。

 「現在は、Fargateの環境をより構築、運用しやすいものにしていくかに主眼を置いている。コスト効果やスピード、セキュリティなどを向上させるため、今後はDockerよりもcontainerdを使っていく方向になるだろう。2020年にはディスクの暗号化を可能にする。ログドライバーのツールとして『Firelens』も提供し、Fargateをより管理しやすいものになる」(Singh氏)

マイクロサービス環境の方向性 マイクロサービス環境の方向性
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 直近の動きはFargate関連が目立つものの、Singh氏は、従来のEC2やECS、EKSの利用が今後縮小していくわけではないとも語る。「ユーザーがどのようなペースでコンテナーを本格採用していくかは分からない。仮に、ECSのユーザーの8割が2年後にFargateへ移行していても驚くべきことではないだろう。われわれの立場では、ユーザーが必要とするあらゆる方法を用意し、ユーザーが必要に応じて組み合わられるようにしているに過ぎない」(Singh氏)

(取材協力:アマゾン ウェブ サービス ジャパン)

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