APIや機械学習の活用始まる--オラクルFSに聞く法人金融のデジタル変革

國谷武史 (編集部)

2020-01-21 06:00

 FinTechに代表される金融分野のデジタル変革は、これまで個人顧客などリテールバンキング領域で進んだが、昨今は法人顧客などのコーポレートバンキング領域でも本格化しつつあるという。この分野の動向について日本オラクル フィナンシャルサービス グローバルビジネスユニット セールスディレクターの宮國均氏に話を聞いた。

 リテールにおけるFinTechサービスは、例えば、銀行口座の情報と連携してFinTechベンチャーの提供するモバイルアプリから家計簿管理ができるなど、分かりやすいものが多い。

日本オラクル フィナンシャルサービス グローバルビジネスユニット セールスディレクターの宮國均氏
日本オラクル フィナンシャルサービス グローバルビジネスユニット セールスディレクターの宮國均氏

 宮國氏によれば、金融機関にとってコーポレートバンキングのビジネスは、収益全体の3割程度を占める重要なものだが、メインフレームなど旧来型システムの制約あるいは属人的な業務プロセスといったものがデジタル化のボトルネックだった。

 「法人顧客も個人顧客のような効率的で迅速な取引ができることを期待するようになった。しかし、金融機関側の仕組みが古いままでは与信から支払いまであらゆるシーンでリスクが高まるに過ぎず、新規顧客の獲得もままならなくなる。このためテクノロジーを活用して一貫性のある新しい顧客体験を提供できるプラットフォームが必要とされている」(宮國氏)

 同氏によれば、金融機関側は法人顧客に対して、グローバルサプライチェーンなどを財務面から支援していく方向にあるという。これをプラットフォームとして可能にするには、「コネクテッドコマースの仕組みが必要で、APIを活用してサプライヤーやFinTech企業、コミュニティーが連携するエコシステム作りが重要になる。各国の規制に対応しながら、透明性を高めたり、業務効率を高めたり、あるいはオペレーショナルリスクに対応していくなどのさまざまなニーズがある」と宮國氏は話す。

 Oracleのフィナンシャルサービスは、Citiのテクノロジー部門が母体であり、20年以上にわたってリテール/コーポレートバンキングの基盤事業を手掛けている。グローバルトップ50行のうち20行が採用し、コーポレートバンキングに関するプロジェクトも135カ国で実績があるという。

 同社が支援した一例がインドのHDFSになる。HDFSでは、Oracleのペイメントプラットフォームを導入することでインターネットやモバイルを通じた顧客接点を強化し、人員を増やすことなくトランザクションを約2倍に増やしている。個人融資のための口座開設を10秒ほどで可能にするサービスなども実現し、APIコール数は1日当たり6000万回以上、ピーク時は毎秒1800回という規模だとしている。

 また、デンマークのSaxo傘下で国際決済や送金、外国為替取引に特化したサービスを手掛けるSaxo Paymentは、OracleのFLEXCUBEを採用して世界各国の金融機関やFinTech企業らとAPI連携する「Saxo Payments Banking Circle」というプラットフォームを展開している。

 活用が期待されるテクノロジーには、AI(人工知能)や機械学習などもある。AIでは、リテール向けサービスでも広く活用されているチャットボットによる顧客対応が分かりやすい。宮國氏によれば、取引データを分析し、AIでキャッシュフローを予測したり、改善策をアドバイスしたり、あるいは融資を提案したりするなどの利用も期待されている。

 また機械学習では、特に世界各国の金融当局が規制強化を進めるマネーロンダリング(資金洗浄)対策があり、膨大で複雑なトランザクションの中から不正な処理を検知するための技術開発が急速に進む。「金融機関にとって特にマネーロンダリング対策は、規制対応が必須ながら収益源になるわけではないので、テクノロジー活用への期待が高い」(宮國氏)という。

 宮國氏は、こうしたコーポレートバンキング領域におけるデジタル変革が金融機関側にとっては、FinTechがリテールバンキングの領域で伝統的なビジネスモデルを破壊したり、全く新しいサービスを生み出したりしたのと同じ、大きな脅威であり商機として捉えられていると話す。

 むしろ法人顧客にとっては、例えば、決済処理の高速化やコストの削減、資金調達の迅速化、財務管理の効率化など、デジタル変革によるメリットが多い。金融機関がこうした価値を顧客に提供できるかが、今後のビジネスを左右するだろうとしている。

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