Red Hatの最高経営責任者(CEO)を務めていたJim Whitehurst氏が、IBMの改革に取り組むべく、同社のプレジデントに就任した。これを受けて、Red Hatで同氏の右腕として活躍していたPaul Cormier氏が新たに同社のCEO兼プレジデントとなった。
Cormier氏がRed Hatに入社した2001年には、法人向けLinux市場で支配的な地位を築くのがどこになるのかについて、確実な予想を口にできる人などいなかった。確かに、Red Hatはそうした地位を狙っていたが、それはCalderaやSUSE、Turbolinuxも同じだった。また、「Solaris」を擁するSun Microsystemsがデータセンター市場をLinuxから守れる可能性も十分にあった。そのような状況で、Red Hatは開発者指向の、あらゆることを実現するLinuxディストリビューションで他社と競合するのではなく、「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)で大企業を狙うべきだと気付いたのだった。
このような進路変更を指揮した人物こそ、今回CEO兼プレジデントに就任したCormier氏だ。
今振り返ってみれば、この動きが極めて道理にかなっていたのは明らかだ。しかし当時は、「Red HatはLinuxを裏切った」や、「Red Hatは次のMicrosoftになりたいのだ!」といった声が人々の間で上がった。また、Red Hat社内の多くの人々もこの考えに難色を示していた。
Cormier氏は当時を思い返して次のように述べた。
Red Hatで当時働いていた人々があの時の大転換を忘れてしまうこともある一方、Red Hatで現在働いている多くの人々は、あれがわれわれの歴史のなかでいかに大きな瞬間だったかを理解していない。われわれは事実上、製品ラインを停めたのだ。我が社はその頃既に株式公開企業だったが、『今後、小売り販売はしない。Red Hat Linuxはもうやめる』と言ったのだ。
Cormier氏は、言うまでもないことだがと前置きし、次のように付け加えた。
当時、納得を得るのは簡単ではなかった。Red Hatに入社して1年目だった私は当時のCEOと話をし、RHELに社運を賭けてほしいという意味の依頼をした時のことを今でも覚えている。私は、8000件のサブスクリプションを獲得するために90日間という猶予を与えてほしいと頼み、7999件しか獲得できなければ会社を辞めると言った。つまり、自分の首を賭けたわけだ。ちなみに、獲得したサブスクリプションは3万2000件だった。
CEOに就任する直前までRed Hatの製品およびテクノロジー担当プレジデントを務めていたCormier氏はそれ以来、同社を最も重要なLinux企業の座に押し上げ、大手ハイブリッドクラウド企業への道を開く数々の買収で中心的な役割を果たしてきた。買収の例として、「Red Hat Virtualization」の実現を可能にしたQumranetの買収や、「Red Hatコンサルティング」の拡充と、「OpenStack」によるクラウドという武器をRed HatにもたらしたeNovanceの買収が挙げられる。
Cormier氏は、オープンハイブリッドクラウドというRed Hatのビジョンを提唱した人物でもある。この取り組みはちょっとした紆余(うよ)曲折を経て、「Kubernetes」を利用する「Red Hat OpenShift」として結実した。また同氏は、かつてであれば考えられなかったMicrosoftとの提携を実現した。この提携により、「Microsoft Azure」上でOpenShiftを利用できる「Azure Red Hat OpenShift」がもたらされることになった。
IBMによるRed Hatの買収という、Linuxおよびオープンソース分野で史上最大規模となる340億ドル(約3兆8000億円)の買収劇で重要な役割を果たしたのも同氏だった。さらに、Cormier氏はRed Hatのユニークな文化を維持しつつ両社をまとめ上げる上でも尽力した。
詰まるところ、最近のRed HatはCormier氏の優れたリーダーシップと業務采配能力によって舵取りされている。また同社は、Bob Young氏に始まり、Matthew Szulik氏、そして同社を純粋なオープンソース企業として初めて10億ドル企業に導き、IBMによる買収を実現させたWhitehurst氏という、偉大なCEOに恵まれてきてもいる。
そして現在、Red Hatの未来は、Cormier氏という優れたCEOの手に委ねられている。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。