多くの企業は、クラウドコンピューティングを取り入れることで、自前でゼロから構築するよりも早く新しいアプリケーションやサービスを従業員に提供している。これによって、多くの組織でデジタルトランスフォーメーション(DX)が前進したが、賞味期限を大きく過ぎたレガシーシステムに足を引っ張られていると感じている組織もある。
人材紹介会社のHarvey NashでCIO紹介事業の責任者を務めているLily Haake氏は、「私は今までの経験から、レガシーITは企業の発展と敏捷性を妨げる大きな問題の1つだと思っている」と述べている。
また調査会社のIDCは、今も多くの組織がレガシー技術への対応に苦戦しており、それが原因で市場の新たな方向性に合わせて素早く方針転換を行うことが難しくなっていると考えている。
一部の組織では、ITへの長期的な投資によって作られたシステムが、長年にわたって地味ながら効果的にビジネスを支えている。このようなケースでは、従量課金のクラウドサービスに移行するよりも、レガシーシステムを維持する方が安価で手間がかからない場合もあるだろう。
しかし多くの企業では、過去の投資が、高い費用がかかる頭痛の種に変わろうとしている。そうした組織にとって、レガシーITは大きな資源の浪費だ。2010年以降の世界のテクノロジー投資は約35兆ドルだと推計されているが、そのうち約4分の3が、既存システムの運用や保守に費やされている。また少なくとも2.5兆ドルがレガシーITシステムのリプレースに投じられており、そのうち7200億ドルもの投資が、リプレースの失敗により無駄になっているという。
一部の分野ではレガシー技術がより深刻な問題になっている。英シェフィールド市議会の業務変革および情報ソリューション担当ディレクターMark Gannon氏は、特にニッチなテクノロジーに依存している場合、公共部門のIT責任者がレガシーシステムから脱却するのは困難な場合があると考えている。
「そのような場合、サプライヤーとの関係を維持せざるを得ず、相手が提供するものを利用するしかない。そうなれば万事休すだ。これは非常に厳しい状況だと言える」と同氏は述べている。
そう考えているのはGannon氏だけではない。欧州の公共部門のITリーダーの3分の2以上(67%)が、レガシーインフラの問題がDXの取り組みを妨げていると考えている。
資源、農産物を取り扱う商社Noble Groupの最高情報セキュリティ責任者(CISO)であるShane Read氏は、深刻な課題に直面しているのは政府のIT責任者だけではないと話す。Read氏は、あらゆるITリーダーがレガシーIT課題の規模を認識しており、「誰もがこれを頭痛の種だと考えている」という。
Noble Groupでは、古いシステムの大半をクラウドか仮想化プラットフォームに移行することができた。しかし同社にも、根強く残っているレガシーITがある。
Read氏は、同社で15年以上使われているアーカイブシステムに言及した。
「このシステムはすでに維持するには費用がかかりすぎるところまで来ており、費用をかけて次世代に移行せざるを得なくなってしまった。今まさにその作業をやっているところだ」とRead氏は述べた。
「変更にはかなりの費用がかっているが、古いシステムを維持するための費用はとんでもない金額になってきている。もう最新化するしかない。私たちは今やクラウドファースト企業であり、それを誇りに思っている」