SAPジャパンは2月17日、2021年の事業戦略を発表した。記者会見した代表取締役社長の鈴木洋史氏は、顧客企業のクラウドやERP(統合基幹業務システム)の活用に向けた取り組みに注力すると表明した。
SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏
2020年の事業概況では、鈴木氏が就任時に設定した5つの重点エリア(ナショナルアジェンダ、デジタルエコシステム、日本型インダストリー4.0、クラウド、エクスペリエンスマネジメント)で、多く取り組みを実施したと報告。ナショナルアジェンダでは、20の自治体で新型コロナウイルス感染症における給付金配布のシステムを提供し、クラウドやエクスペリエンスマネジメントでは、クアルトリクスおよびサクセスファクターズと連携した顧客体験(CX)や従業員体験(EX)を管理するソリューションなどを展開した。
業績面は、グローバルではクラウドの売り上げが18%増、営業利益が4%増などコロナ禍でも好調だったと報告。日本法人としても売り上げが11%増の約1650億円に達し、2014年度時点に比べて2倍以上になったとした。
こうした実績を踏まえて同社では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に取り組む顧客を表彰する「SAP Japan Customer Award」を新設。グラミン日本、三井金属鉱業、川崎重工業、日東電工、LIXILを選出した。
「SAP Japan Customer Award」に選出した顧客
2021年の事業戦略は、5つの重点エリアを継続しつつ、「クラウドカンパニーへの深化」「顧客の成功に欠かせない存在」「顧客や社員に選ばれる会社」という3つのテーマを設定したとする。
「クラウドカンパニーへの深化」は、これまで経費精算ならコンカー、人材管理ならサクセスファクターズ、購買ならアリバといったように業務別に展開したクラウドサービス群に加えて、「コアERP」と称するS/4 HANAなど同社中核の製品サービスの展開を強化する。この一環として1月下旬に「RISE with SAP」を発表した。
同社のERP製品に関しては、「2025年の崖」の契機にもなったECC 6.0が2027年にサポートを終了するため、後継となるS/4 HANAなどへの移行が発生する。しかし、長期運用されてきたECC 6.0は導入企業ごとに膨大なカスタマイズが行われ、それがS/4 HANAに移行する上で最大の課題とされる。RISE with SAPでは、稼働環境としてIaaSやオンプレミスを選択できるだけなく、現行利用するERPの状態を把握した上で、S/4 HANAなどへの移行対応を全面的に行っていくという。
「RISE with SAP」の概要
会見で鈴木氏は、「(業務別の)現在のクラウドサービスはどの企業にも共通した機能になるが、コアERPは導入各社がカスタマイズしており非常に複雑な状況にあり、われわれも理解している。万全の体制でお客さまの移行に対応し、あらゆる企業が(SAPの標榜する)インテリジェントエンタープライズへの変革に乗り出すきっかけとしたい」と意欲を見せた。
クラウドでは、この他に業界特化型のサービスの展開も推進。まずは製造分野向けに二酸化炭素排出削減に向けた取り組みを支援する機能を提供する。
「顧客の成功に欠かせない存在」での取り組みは、全社員1600人中1100人が所属するというカスタマーサクセス部門も強化し、この中で製品やサービスの導入や活用支援に当たる人員を現行の530人から570人程度に増員する。
「顧客や社員に選ばれる会社」での大きな取り組みとしては、4月以降に本社を千代田区半蔵門から同大手町に移転する。社員アンケートで約9割がオフィスへの出社を前提とする勤務を望んでいないことが分かり、新本社は単なる就業場所ではなく、顧客やビジネスパートナーらと共同作業する場所に位置付けを変えるという。
また、「Beyond SAP Japan 2023」という中期変革プログラムを策定した。100人の社員が参加しているといい、社会や人、顧客、製品・サービス、認知といった軸で、活力あるさまざま取り組みを推進していくとしている。
「Beyond SAP Japan 2023」