DXマネジメントオフィス入門

DX専門組織が必要とされる背景と全体像

塩野拓 (KPMGコンサルティング)

2021-09-06 06:00

1.新たなデジタル時代を生き抜くために、企業が解決すべき課題

(1)現代の企業を取り巻く環境変化とDXの必要性

 2020年以降、世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、私たちの生活やビジネス社会にさまざまな変化がありました。しかし、危機のさなかにある今だからこそ、企業には全社一丸でのスピーディーかつ抜本的なデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められており、多くの企業がデジタル技術を活用したさまざまな取り組みを模索しています。その状況下において、DXへ向けて急速に取り組みを進める中で、DXに至らない単なるIT化(デジタリゼーション)にとどまることもしばし見受けられます。

 時代を振り返ると、リーマンショックや数々の震災、MERS(中東呼吸器症候群)など過去の困難期にあっても抜本的な変革に踏み出せた企業が、その後のビジネスにおける勝機をつかんでいる傾向が見られます。とりわけ、昨今のCOVID-19の影響範囲や深刻度は不透明です。従来型の短期的な効率化施策だけでは、今後発生し得る予測困難な危機に耐えられないリスクがあるため、デジタル化とサステナブルな経営システムへの全社変革が必要な状況と言えます。さらには、アフターコロナへの対応内容によっては、企業のイメージダウンにつながる懸念もあります。これからは新たな時代に備え、デジタルを最大限活用したチャレンジングな事業継続も念頭に置きながら、暫定対応から恒久対応へ視点を変えた全社最適のDXが求められています。

(2)日本企業でDXが成功しない理由

 多くの企業は、中期経営計画において3~5年の中・長期的な理念、ビジョンや経営戦略を株主やマーケット、従業員に示します。この中に、デジタルに関わる方針も含まれていますが、ほとんどの場合、「DXの推進強化」というキーワードについて触れられているのみで、経営戦略に整合した、具体的な全社・各事業部別のデジタル戦略や施策まで述べられていません(図表1)。また、全社デジタル戦略をコミットする最高経営責任者/最高情報責任者(CEO/CIO)が不在、かつ推進度合いを定量的に測定する重要業績評価指標(KPI)も未定義な状況が目立ちます。これらの事象により、経営陣からのディレクションや予算執行の支援方針があいまいなまま、各事業部が自助努力かつ手探りでDX活動を進めることとなり、DXのスピードを遅らせる結果を招きます。これが1つ目の想定課題と考えます(図表2)。

 次にDXを継続的かつ着実に推進するプロセス(アジャイル手法など)が定義されておらず、概念実証(PoC)以降、どのようにDXを進めてよいか分からない状況が散見されます。人材面においても、各部署およびIT部門でデジタル施策を推進するメンバーが不足している状況が多く見受けられます(図表3)。また、デジタルに関わる知見の共有や共同作業を行うプラットフォームが未整備である故に、非効率な状況が生まれています。これらの事象により、デジタルの知見を持つメンバーが専任的に活躍し、経験やナレッジを蓄積、活用しているにもかかわらず、最新の導入プロセスを駆使してもDXの品質を最大化できないという結果を招きます。これが2つ目の想定課題と考えます。

図表1 図表1
※クリックすると拡大画像が見られます

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

マイナンバーカードの利用状況を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]