野村総合研究所(NRI)は、「情報・デジタル子会社における今後の方向性と課題に関する調査」の結果を発表した。同調査は3月1日~19日、ウェブによるアンケートで、国内企業の情報/デジタル子会社47社を対象に実施された。
同調査では、子会社の業務内容から見た企業特性に着目し、主に従来の基幹系システムや業務系システムなどの開発/保守/運用を担う子会社を「従来IT子会社」、主にデジタル化やDX(デジタル変革)、デジタルビジネスに特化したサービスを提供する子会社を「デジタル子会社」、その両方を担う子会社を「従来IT・デジタル子会社」と区分した。デジタル子会社に分類される企業は、47社中5社(10.6%)と少数であり、統計の視点からは参考値レベルだが、今後の方向性を見る上で示唆に富んでいるため分析対象にしたという。
職種ごとの人材の過不足感について尋ねたところ、最も不足感が強かったのは「データサイエンティスト」で、32%の子会社が「大幅に不足」と回答した。次いで「大幅に不足」の回答割合が高かったのは、「AIエンジニア」(19%)、「ITアーキテクト」(17%)だった。
大幅に不足の回答割合が高い上位10項目(出典:NRI)
この結果についてNRIでは、既存システムの保守/運用業務のアウトソースや自社内の業務効率化により人材を捻出して能力開発を行った上で、上記のような不足する職種へ配置転換することも一つの有効策としている。
また、自社の抱える問題意識について複数回答形式で尋ねたところ、最も多かったのは「ITを活用した企画力不足」(64%)で、次いで多かったのは「新技術への感度が低い(R&D機能が不十分)」(43%)、「育成環境が不十分」(38%)だった。
NRIでは企画力不足への対応として、親/グループ会社の抜本的な業務の見直しを経験することや、業務の上流工程シフトが有効としている。また技術感度を高めるには、自社に影響を与え得る社会や生活者の動向、デジタル技術進化の展望、他社の先進的な取り組み、先進的な技術やサービスを提供しようとしているスタートアップ企業の動向などを察知する調査/探求機能を強化することが有効としている。
さらに自社の問題意識に鑑みた場合の機能強化の方向性については、「戦略的パートナーとの協業を検討する」と回答したのは全体で30%だった。また、デジタル子会社、従来IT・デジタル子会社の方が、従来IT子会社よりも「戦略的パートナーとの協業を検討する」傾向が強く見られた。
10年後の事業規模の拡大(売上増分割合)については、回答企業の70%が「大幅拡大(20%以上)」「ある程度拡大(5%以上20%未満)」と回答しており、デジタル子会社、従来IT・デジタル子会社の方が、従来IT子会社よりも「大幅拡大」の回答が多くなっている。また従来IT・デジタル子会社は、従来IT子会社と比較して人材の過不足感が相対的に低く、自社の抱える問題意識についても相対的に低い傾向が見られた。
売上高に占める外販(グループ外企業向けのサービス提供)の割合や成長率について尋ねた。直近3年の外販売上高の年平均成長率が3%以上の子会社を「外販優勢子会社」と区分した(今回の回答企業では10社、21.3%)。また、外販を行っているそれ以外の子会社を「外販持続/劣勢子会社」と区分した(19社、40.4%)。
外販優勢子会社は、外販持続/劣勢子会社と比較して、「パッケージクラウド(自社製品)」「業務コンサルティング」「システムコンサルティング」「デジタル関連の業務コンサルティング/業務支援」を提供している割合が高く、両者には30ポイント以上の差があった。
NRIでは、内販のみのサービスを提供する子会社(18社、38.3%)の場合、自社のDX推進の組織能力は、親/グループ会社のDX進展に依存してしまうと指摘する。この弱点を脱却するには、親/グループ会社のDX推進の中核になれる組織能力を備え、その後は、グループ外へのコンサルティングサービスの開発と、そのサービスの絶え間ない改善によるビジネス拡大を通じて、自社の収益基盤を強固にすることが重要だとした。