前回までデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の大きな枠組みに資する事項を紹介し、Digital Transformation Management Office(以下、DXMO)標準化モデル(図1参照)に基づき、「DX組織モデル」について解説しました。
今回は、DXMOの推進母体であるDX専門組織メンバーに求められるデジタル人材像、そして、継続的成長とスキル評価の礎となるキャリアパスにさらに踏み込んだ「DX人材モデル」について紹介します。
図1.DXMO標準化モデル
DX専門組織メンバーに求められるデジタル人材像導出のアプローチ
まず、DX専門組織に必要なデジタル人材像を導出するアプローチについて説明します。DX専門組織は、IT部門と異なり、既存の基幹システムの運用保守、既存ハードウェア(サーバー、PC端末)・ソフトウェア管理、OS・ネットワーク管理、これらに関するユーザーからの問い合せ対応などのいわゆる「守りのIT」にかかる業務は行いません。先進的なデジタルテクノロジー(人工知能、IoT、ブロックチェーンなど)を実装する技術力を武器に、今もさまざまな企業でチャレンジが続けられているデジタル施策、つまり「攻めのIT」の領域を主戦場としています。
とはいえ、上記のような技術力を保有している人材を捜索することは、どの企業でもされていない、または、できていないと思われます。その理由は、多くの企業において、デジタル人材の獲得や教育に相応のコストを要することはもちろん、「いったい何をするためのデジタル人材なのか」という目的が不明瞭である状態だからです。それでは、デジタル人材像をどのようにして定義すればよいのでしょうか。
企業に必要なデジタル人材像を正しく導出するには、「必要なDX組織機能の定義」→「必要なDX人材定義」→「必要なDX人材教育計画の立案」といった手順で進めることを推奨します(図2参照)。まずは、自社の全社経営戦略を実現させる各部門のビジネス戦略を定義し、それに資するデジタル戦略推進に必要な「DX組織機能」を導出、定義します。
次に、DX組織機能ごとの役割を明確に定義したのち、それぞれ実行タスク(10種程度)、そして、タスク推進に必要なスキルの明確化し、DX組織機能ごとの要員数を導出、定義します。この段階で、自社のデジタル施策推進の活動に整合したデジタル人材像が、目的を持って定義され、社内の人事方針決定者にも納得されやすい人材リクエストを提示できるでしょう。ただ、単にデジタル人材を獲得するだけではなく、獲得後にいかに教育を進めていくのかという育成計画もセットで策定する必要があります。企業にとってデジタル人材を正社員登用することは、一過性の事案ではないためです。DX人材の育成は、現状のDX人材スキルを把握した上で、目指すべきDX人材スキルの目標地点を決定し、教育マテリアルの選定を進め、教育計画を立案します(この領域の具体的な推進手法は、第3回の記事をご参照ください)。
いずれにせよ、自社特有の全社経営戦略から落とし込むアプローチが最も合理的であり、適切です。一方で、そこを起点とするがゆえに、企業に必要なデジタル人材像、獲得の時期は、その企業によって異なるでしょう。今回は、これまで触れてこなかった「DX組織機能ごとの役割」「デジタル人材のキャリアパス」「DX組織機能ごとのスキル」にフォーカスし、解説を進めていきます。
図2.デジタル人材像導出のアプローチ