はじめに
新型コロナウイルス感染症の流行以降、「ジョブ型雇用」「ジョブ型人事制度」など、「ジョブ型」という単語を目にすることが増えてきました。大企業がジョブ型人事制度を導入したというニュースも度々報道されています。本稿では、このジョブ型人事制度の波や、それに対してマネージャーや人事、一般の従業員はそれぞれどのように対応すればよいのかについて考えます。
「ジョブ型人事制度」とは何なのか?
ジョブ型雇用、ジョブ型人事制度といった単語を検索エンジンで検索すると、多数の解説サイトが出てきます。検索してみれば分かりますが、サイトや執筆者によって定義はバラバラで一貫していません。このような定義の混乱は流行のキーワードにはよくあることで、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」「エンゲージメント」などの言葉も似たようなことになっています。「ジョブ型人事制度」の定義はさまざまですが、以下のように整理できます。
狭義(ほとんどの執筆者が含んでいる)
- 職務要件の明確化:職務記述書を作成し、ポジションごとの役割を明確にする
- 職務給:能力ではなく役割=ポジションに対して給与を定める
- 職務を明確にした雇用契約
広義(一部の執筆者が含んでいる)
- 職種/ポジション別採用:総合職採用ではなく、入社後のポジションを明確にして採用する
- 企業による異動の自由度制限:部署・勤務地の変更が困難になる
- 解雇しやすくなる(クビになりやすくなる)
広義にも記載しなかったさまざまな意味を込めている執筆者もいます。実務場面では、「成果主義」「年功序列終身雇用をやめること」「欧米の人事制度(実際は欧州と米国で大分異なり、職種ごとの違いも大きいのですが)」といった程度の意味合いで「ジョブ型」が語られることもあり、かなり定義が多様化しています。
なぜジョブ型人事制度が注目されているのか?
なぜ近年ジョブ型人事制度への注目が高まっているのでしょうか。その背景としては、経営陣、特に大企業が抱える既存の人事制度への課題意識があります。具体的には以下のようなものです。
- 年功序列の人事制度への危機感
昔から言われていることですが、年功序列の給与制度のもとで成果に見合わない待遇を得ている従業員への危機感は大企業において根強く存在します - 優秀・専門人材の採用・維持
(1)と関係の強い話になります。年功序列の給与制度では、外部の卓越した専門家や若手優秀層に対して十分な待遇を用意することが難しく、採用・維持することが困難です - リモートワークへの対応
コロナ禍で急速にリモートワークが普及しましたが、「役割認識が曖昧なため、従業員がちゃんと動いてくれていないのでは」と不安を感じる経営者がいるようです
それぞれの課題意識に対して、解決策として期待されているジョブ型人事制度の要素は以下のように整理できます。
- 年功序列の人事制度への危機感
→職務給:年功序列賃金を職務給に置き換えることで、成果と待遇のバランスが改善されると期待されています - 優秀・専門人材の採用・維持
→職務給:職務給にすることで、若手優秀層を重要ポストに付けて十分な待遇を与えることができ、離職を防止できると見込まれています - リモートワークへの対応
→職務要件の明確化:「職務要件を明確化すれば、従業員の役割が明確化し、リモートワークでもうまく動いてくれる」という効果が期待されているようです
→職種別採用:外部専門人材を獲得するには職務給にするだけではなく、職種(職務)別採用 にすることも必要となります
先ほど、「ジョブ型人事制度の定義は多様」と記載しましたが、こうした背景を踏まえ、本記事では企業の課題意識や期待と関連が深い「職務給」「職種別採用」「職務要件の明確化」をジョブ型人事制度の要素として対応を検討したいと思います。なぜなら、実際に企業が実施しそうな施策こそ、多くのビジネスパーソンが対応を迫られる事象だからです。