現在、世界のさまざまな業界、規模の企業がマルチクラウドの利用を進めています。本連載は、HashiCorpが実施した調査結果をまとめた「クラウド戦略実態レポート(State of Cloud Strategy Survey)」から、企業のクラウド活用状況や今後の利用方針、課題点、クラウドの成功に関連する主要なテクノロジーなど、さまざまな洞察を解説していきます。第1回となる今回は、調査結果全体を俯瞰(ふかん)して、企業のクラウド活用の現状を明らかにします。
マルチクラウド時代は既に到来している
調査では約3200件の回答を得ました。その結果によると、回答者の76%が、既にマルチクラウド環境を活用していることが明らかになりました。回答者は、複数のパブリッククラウドまたはプライベートクラウドを日常的に使用していることが分かり、企業はマルチクラウドを漠然とした目標や野心的な目標として捉えているのではなく、既に日常的なものとして認識しています。
調査結果では、マルチクラウドの採用は、大企業に大きく偏っていました。従業員5000人以上の組織の90%がマルチクラウドを採用しています。ただし、中小企業(従業員100人未満)においても60%がマルチクラウドを採用しており、まだ採用していない企業の81%が、今後2年以内にマルチクラウドを採用すると回答しています。この点でもマルチクラウド時代は既に到来しており、普及段階にあると言えそうです。
マルチクラウドの導入状況
マルチクラウドがDXを推進する
このように非常に多くの組織がマルチクラウド戦略を採用し、さらに多くの組織が採用を予定しているきっかけは何でしょうか。調査結果によると、回答者の3分の1以上(34%)が、デジタルトランスフォーメーション(DX)をマルチクラウドおよびテクノロジーの採用を推進するトップ3の要因の1つとして挙げました。
DXは、シングルクラウドによる「ベンダーロックインの回避」(30%)、「コスト削減」(28%)、「スケーリング機能」(25%)など、従来の要素を上回っています。また、DXは大企業の間で特に重要であり、その50%がマルチクラウドをDXの推進力と呼んでいます。これは、マルチクラウドのけん引役である金融サービス業界においても同様(41%)でした。
マルチクラウドの採用を推進する要因
コロナ禍が世界経済に異常な影響を及ぼしていることを考えると、クラウドとマルチクラウドの成長は、感染拡大対策のための外出自粛とオンライン使用の増加に原因であると考えがちです。しかし、それは一部に過ぎません。回答者のほぼ半数(46%)が、「コロナ禍はクラウドまたはマルチクラウドの採用への移行に影響を与えなかった」と述べ、19%は「影響は少なく、移行時期が6~12カ月程度短縮したに過ぎない」と述べています。
これらの結果は、一般的な感覚と異なるように見えるかもしれません。しかし、クラウドの採用努力が重要であり、その取り組みはコロナ禍以前から行われていたことです。そして、今後も続いていくでしょう。
一方で、「コロナ禍はDXのタイムラインに影響を与えなかった」と回答した大企業は32%でした。これは中小企業の回答率(58%)を大きく上回りました。また、回答者の39%が「コロナ禍でオープンソースソフトウェアの使用を増やした」ことも注目に値します。
コロナ禍のクラウドへの影響
マルチクラウドの選択がより有益だったことは、コロナ禍に対応して組織がDXの取り組みを加速するために採用したテクノロジー分野でしょう。回答者のほぼ半数(49%)が、「Infrastructure as Code」、41%が「コンテナーのオーケストレーション」、33%が「コンプライアンスとガバナンス」、33%が「ネットワークインフラストラクチャーの自動化」、32%が「セルフサービスインフラストラクチャー」と回答しています。