Paul Tomlinson氏は、デスクの前に座るのではなく、ヘッドセットを装着して宇宙から地球を眺めながら、コーディングやメッセージ、Spotify用のさまざまな画面を開いて働く時間が、週に40〜50時間にも及ぶ。熱帯のラグーンを見下ろしながら、電子メールに対応することもある。
他の人々がデスクでコーヒーをすする同僚を見ながら仕事をする一方で、同氏はキャンプファイヤーのそばや潜水艦の上から会議に参加する。それが可能なのは、Tomlinson氏が何年も前から、仮想現実(VR)の中で勤務日、勤務週の多くを過ごしているからだ。
Tomlinson氏は2014年からVRを娯楽として使用していたが、2019年に仕事にも利用できることに気づき、そのチャンスに飛びついた。
「それから1週間以内に、デスク全体を整理して、モニターや不要なものをすべて取り除き、入力システムと周辺機器、飲み物、猫用の箱だけを残した」とTomlinson氏。「今では、椅子とキーボードしかない」
Tomlinson氏やその他の多くのビジネスパーソンにとって、VRの中で仕事をするとワークフローや生産性の面でメリットがあることが実証されている。
「私に大きな自由を与えてくれる。画面スペースを必要な分だけリサイズ、再配置、追加、削除することができる。目を細めたり、身を乗り出したり、首を伸ばしたり、開いたばかりのアプリケーションウィンドウを探したりする必要もないし、何かを表示するスペースを見つけるのに苦労することもない」。こう語るTomlinson氏は、VR内で働いた経験を「Working from Orbit」というブログにつづり、大きな話題を呼んだ。
Tomlinson氏は現在、週に2〜3日は「Oculus Quest 2」ヘッドセットの仮想世界の中だけで働いている。同氏はそれによって集中力と生産性が高まったと述べた。その原因は、物理的に作業用スペースを区切って気を散らす要素を制限し、「Immersed」「Spatial」「Horizon Workrooms」「Noda」などの各種VRアプリを使用して仕事に没頭できることだという。
さらに、同氏はVRによって、現実世界では再現不可能な新しい能力を得られている。
「ホワイトボードのスペースは無限であり、マーカーペンを使うだけでなく、他にも多くの物体や写真などを含めることができる。物体の拡大と縮小もできるし、自分自身のサイズ変更も可能だ」とTomlinson氏。「会場自体を変更して、キャンプファイヤーの周りや潜水艦の上で会議を開くことができる」
Tomlinson氏が参加しているFacebookグループ「XR4Work」は、1400人以上のメンバーがVR世界での仕事に関するヒントや経験、業界ニュースを共有しているコミュニティーだ。
グループの共同作成者であるRick Casteel氏によると、メンバーは作家、開発者、不動産業者、自動車デザイナーなど、さまざまな業界にまたがっており、全員がVRを日常業務で活用しているという。
Casteel氏は、オンボーディングでのVRの使用が、最近特に目にするユースケースだと述べ、その例として、新入社員の研修に仮想現実を利用する航空会社を挙げた。