現実世界の自然現象をリアルタイムでシミュレーションすることにより、科学者らは気象条件の変化に追随したシナリオを展開し、それに基づく予測を立てられるようになる。これは、地球温暖化をはじめとする異常気象に取り組んでいく上での武器となるはずだ。
コンピューターメーカーのCerebras Systemsは、AIとは関係のない問題に同社のAI用コンピューターを用いて取り組んだ。その問題とは、自然界の多くの系の力学の背後にある「浮力を考慮したナビエ・ストークス流体」のシミュレーションだ。過去に例を見ない今回の取り組みにより、現実世界の「デジタルツイン」を実現できるようになることで、科学者らは予測を立て、ある種のコントロールループにおける介入結果を確認できるようになる。
提供:Cerebras Systems/DoE NETL 2023
人工知能(AI)コンピューティングの先駆者であるCerebras Systemsと、米エネルギー省(DoE)の国立エネルギー技術研究所(NETL)は米国時間2月7日、異常気象のシミュレーションをリアルタイムで可能にする科学方程式の解を数値的手法で高速に求めることに成功したと発表した。
Cerebrasの最高経営責任者(CEO)Andrew Feldman氏は、「これは、動的な環境におけるさまざまな体積の液体の振る舞いについてのリアルタイムシミュレーションだ」と述べた。
同氏は「リアルタイムで、あるいはそれ以上の速度で未来を予測できる」と述べるとともに、「事の起こりから現実の現象がシミュレーションよりも遅い速度で展開するため、後戻りして調整することもできる」と続けた。
同氏によると、この種のシミュレーション、すなわち現実世界のデジタルツイン化により、実質的に現実を操作するための「コントロールループ」を作り出せるという。
NETLで研究所所長を務めるBrian J. Anderson氏はあらかじめ用意していたコメントで「われわれは、このリアルタイムの自然対流シミュレーションの可能性に身震いしている。これにより気候変動の緩和のほか、将来的なエネルギーの安定供給を可能にする上で欠かせない、炭素隔離や、ブルー水素の製造といった大規模プロジェクトの設計プロセスが劇的に加速、改善できるようになる」と述べた。
そしてAnderson氏は、「このワークロードを従来型のスーパーコンピューターで実行した場合、数百倍は時間がかかり、リアルタイムレートや極めて解像度の高い流体を扱える可能性が損なわれる」と付け加えた。
リサーチャーらが用意した動画では、高温と低温の流体が上下する異世界のような情景が映し出されていた。
Cerebrasは、大規模AIモデルの訓練に向けた、風変わりなハードウェアとソフトウェアで知られている。しかし同社は、AIとは関係なさそうなものの、計算量が莫大となる基礎科学における難問に狙いを定めることで、自社製品の応用範囲を広げている。