ラクスルグループのジョーシスは2月21日、野村総合研究所(NRI)およびマクニカ(横浜市)と製品提供並びに販売に関する業務提携の契約を締結した。同提携を通して、中小企業におけるIT業務のDXを支援し、日本のIT人材不足を解消していくという。
同提携では、ジョーシスがNRIとマクニカとの販売代理契約を締結することで、ジョーシスが提供するITデバイス/SaaS統合管理サービス「ジョーシス」の国内外での販売拡大やブランドの浸透を図る。
ラクスル 兼 ジョーシス 代表取締役社長 最高経営責任者(CEO) 松本恭攝氏
同日の記者会見に登壇したラクスル 兼 ジョーシスの代表取締役社長 最高経営責任者(CEO) 松本恭攝氏は、中堅・中小企業はIT人材の不足により、「IT部門の業務負荷」や「セキュリティ対策の遅れ」が経営の課題として挙げられていると説明。IPAが実施した「2021年度中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」によると、ヘルプデスクや問い合わせ対応、システム監視などノンコア業務に関与する時間が長いと回答した従業員は69%に上る。また、中小企業の30%が過去3年間にセキュリティ投資を行っていないという結果だ。
IT部門の業務負荷が増加している要因として、同氏はコロナ禍による在宅勤務が増えたことによるクラウドサービスの利用増加が挙げられるといい、結果として「クラウドサービスに関わる運用オペレーションの増加」や「専門知識がなくてもできるノンコア業務の増加」につながっていると話す。またこれにより、IT部門がセキュリティ対策や生産性向上といった本来の業務に専念できずにいるという。
昨今は、脆弱(ぜいじゃく)な中堅・中小企業をターゲットにしたサイバー攻撃が増加。1つのセキュリティインシデントでも多額の被害が生まれ、倒産の可能性も十分にあると同氏は指摘する。
ジョーシスでは、IT部門が抱える多くのノンコア業務を自動化・効率化する。例えば、クラウドサービスのアカウント発行や削除の対応工数を減らしたり、未利用アカウントの検知によってコストを削減したりと、IT人材の不足を解消する。
また、情報漏えいの要因となる退職者アカウントの削除漏れや、コスト増加につながるシャドーIT(IT部門が把握していないクラウドサービス)の検知など、IT資産利用のリスクを可視化し把握することで、サイバー攻撃を予防できるとしている。
松本氏は、サイバー攻撃を防ぐために中堅・中小企業に必要なことは、検知よりも前に社内のIT環境や利用状況の可視化、把握をする「サイバーハイジーン」が重要だという。これにより、セキュリティホールがないかを確認し、リスクを事前に防ぐことでサイバーセキュリティのリスクを回避していく。
中小・中堅企業に必要なサイバーハイジーン(提供:ジョーシス)
今回の提携では、マクニカが培ってきた専門的な知見に基づく独自のセキュリティ監視・運用サービスとジョーシスを合わせて提供し、企業のコーポレートIT業務への支援を強化する意図もある。
マクニカのセキュリティ監視・運用サービスは、セキュリティ分析に優れたアナリストが顧客のEDR(エンドポイント型の脅威検知および対応)製品を24時間体制で監視・運用し、インシデント重要度を基に対応する。また、発生したインシデントに対して、緊急度が高いと判断した場合、1時間以内を目標に端末ネットワークから隔離し、検知内容の1次調査報告を実施する。このようにマクニカグループが監視・運用を総合的に支援することで、IT部門における人材不足の解消につなげるという。
マクニカのセキュリティサービスとジョーシスの連携体制(提供:マクニカ)
マクニカ ネットワークスカンパニー バイスプレジデント 吉井奉之氏
会見に登壇したマクニカ ネットワークスカンパニー バイスプレジデントの吉井奉之氏は、「ジョーシスとの連携により、サプライチェーン攻撃において中堅・中小企業をより安全にしていくことに貢献できると期待している。ジョーシスのサービスをコアに、われわれのセキュリティ監視サービスを付加価値として提供していきたい」とコメント。将来的には、2023年度で80社に導入し、2027年度には1000社の導入を目指すという。
また、コンサルティングからITソリューションまで一貫したサービスを提供するNRIでは、ジョーシスの展開に向けて「最適なSaaS利活用を推進し、企業価値を高める」「安心安全な利用促進に向けて、asleadの製品群との連携」「対象とする企業・マーケットの拡大」――の3つの販売戦略を展開すると、NRI 常務執行役員 マルチクラウドインテグレーション 事業本部長の大元成和氏は説明。「最適なSaaS利活用を推進し、企業価値を高める」では、業務効率化はもちろん、NRIのコンサルティングとITソリューションのノウハウをジョーシスと結びつけ、トータルサービスとして顧客のコーポレートIT(CIT)をサポートする。
「安心安全な利用促進に向けて、asleadの製品群との連携」では、システム開発およびオフィス業務の生産性を向上させる製品の導入・運用・サポートを提供する「aslead」にジョーシスを追加し、さまざまな企業に提供していくという。「対象とする企業・マーケットの拡大」においては、エンタープライズから中小企業に広げ、いずれ海外向けに展開していきたいとしている。
asleadが提供する製品・ソリューション(提供:野村総合研究所)
NRI 常務執行役員 マルチクラウドインテグレーション 事業本部長 大元成和氏
大元氏は、「今はクラウドカオスと言われているが、その先はSaaSカオスが来ると予想している。SaaSカオスを乗り越え、未来の日本においてクラウド社会を構築したいと考えている。その実現に向けて、中小企業を含めた顧客の企業価値向上のための“攻めのCIT”に取り組みたい」と話した。