PCやSaaSを管理するクラウド「ジョーシス」、2023年から英語圏でサービス提供

田中好伸 (編集部)

2022-09-08 11:49

 ラクスルは、PCなどの端末とSaaSを統合管理するクラウドサービス「ジョーシス」の提供を2021年9月に開始。2022年2月にジョーシス事業は「ジョーシス株式会社」として分社化された。

 ジョーシスは従業員入社時のデバイス調達からキッティング(業務内容に合わせた設定)、SaaSアカウントの作成を手始めに、在籍中は端末とSaaSの棚卸し、ヘルプデスク対応、端末とSaaSの割り付けや権限変更。そして退社時は端末返却や管理、SaaSアカウントのワンクリック削除といったIT部門が担ってきた雑務(コーポレートIT業務の一部)をクラウドで一括して実行できる。

 同サービスは直近の9カ月で月次収益(Monthly Recurring Revenue:MRR)が29倍に増加したという。2022年8月にサービス利用企業の利用満足度を測るエリステストでは、50%が「ジョーシスが使えなくなるととても残念」と回答している。

 同社によれば、ジョーシスが担う「コーポレートIT業務の再構築」は、日本企業はもちろん世界中の企業が直面する課題という。

 そのジョーシスは9月7日に第三者割当増資で総額44億2000万円を調達した。グローバル・ブレイン、ANRI、Yamauchi-No.10、デジタルホールディングス、WiLなどのベンチャーキャピタルが引き受けた。

 今回の資金調達をもとに、ジョーシスは英語圏でのサービスを2023年から提供する。2023年初頭にシンガポールで開始、2023年内に米国を含む英語圏でのサービス提供を考えている(サービス提供はインドやシンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、英国、ドイツ、オランダ、カナダを想定している)。

 日本のITベンダーが英語圏で製品やサービスを提供するのは極めて少ない。何を狙い、どのように英語圏で利用してもらうのか――。メールで取材した。回答したのはジョーシス 最高プロダクト責任者(CPO) 横手絢一氏。

ジョーシス CPO 横手絢一氏
ジョーシス CPO 横手絢一氏

 日本国内でジョーシスを利用する企業の特徴はどういったものがあるのか。

 中小企業から大企業まで満遍なく問い合わせを受けている。端末やSaaSに関わる課題は従業員規模に関係のない普遍的課題と考えている。業種については、IT企業や上場を目指す成長企業だけでなく、製造業や不動産業、ホテル、飲食店からフラワーショップなど幅広く、業界も超えていると考えている。

 日本企業でのIT部門は海外企業と比べると異なる部分があると指摘されている。例えば、IT人材の数を「ユーザー企業:ベンダー企業」で見ると、割合は日本が「3:7」であるのに対して、米国は「7:3」となっている(英国やドイツ、フランスだと「6:4」、いずれにしてもユーザー企業の方がIT人材は多い)。

 日本市場では、どうしても頼らざるを得ないのが外部のシステムインテグレーター(SIer)だ。

 英語圏でのサービス提供を狙うジョーシスは、日本と異なる海外企業のIT部門の状況をどのように見ているのか。横手氏は「SIerの存在が日本企業と異なっている」と解説した。

 日本では、終身雇用が一般的で人材の流動性が低い分、新しい製品やシステム開発・導入の際に、プロジェクト単位で人材を雇用してプロジェクト終了によって契約終了ということがしづらいため、そこを補う存在としてSIerが非常に重要な意義を持っている。

 海外では、プロジェクト単位での雇用や契約終了も一般的であるため、その分SIerが占める意味合いも異なっていると考えている。SIerの立ち位置が異なる分、システムの内製化に対する意識も海外の方が比較的高いのではと思う。

 日本のITベンダーが海外に進出するときに気を付けたいのが、企業文化や商習慣の違いだ。例えば、米国企業の場合、上司は自分のスケジュールを共有したがらないという(この数年で変わっているとも聞く)。

 日本と米国の違いで言えば、電話の存在だ。日本企業の場合、所属する部署の代表番号があるが、米国企業は所属部署の代表番号はないと言われている。日本製の製品やサービスが海外に進出する時には、こうした企業文化や商習慣の違いは見えない障害になりかねない。ジョーシスは、どのように考えているのか。

 既に(ジョーシスの)開発拠点をインドに置き、2カ国体制で事業開発を進めている中で、一言で企業文化の違いとは片付けられない、さまざまな違いを痛感している。グローバルプロダクトとしてのブランディングやユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス(UI/UX)の向上は国横断的に行いながらも、一定のローカライズは必要となると考えている。

 プロダクトの設計としても各国固有の商習慣に合わせたローカライズ機能導入については、可能とする余地を残している。「Zoom」が日本市場向けの機能として、上席の方を左上のパネルに固定するなどは日本の独特な習慣に対応した機能だが、そうしたローカライズも各国市場への浸透を考える上では、非常に重要だと考えている。

 「コーポレートIT業務の再構築」は日本を含めた世界共通の課題とジョーシスは主張する。同社は世界共通の課題として「情報システム全体の戦略デザインの欠如」も考えている。これはどういうことだろうか。

 新型コロナウィルス感染症の拡大を背景に、全世界的にリモートワークが急速に広がった結果、情報システム部門の業務に負担感が増していることは各国共通の課題。

 もともとテクノロジーが進化するに伴い、ユーザー1人当たりの利用するSaaS数が増加傾向にあるなどの現状はあったが、これがコロナ禍で加速し、またより強固なセキュリティ対策なども必要になってきている。

 テクノロジーの飛躍的進歩、SaaS領域の拡大に対し、作業としてのアカウント発行や端末の購入、設定などのオペレーションそのものの効率化が追いついておらず、結果的に情報システム部門の方々がオペレーションに追われているという状況は日本に限らず、程度の差はあれど、海外でも同様の状況が見受けられる。その結果、セキュリティ強化やデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の構築など本来時間を割くべき課題に手をつけられていないという課題感は世界共通だと考えている。

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