ラクスルは9月1日、第4の事業としてITデバイスとSaaSを統合管理するクラウドサービス「ジョーシス」の提供を開始した。同社は、コロナ禍によるリモートワークでIT部門の課題に直面。代表取締役社長 最高経営責任者(CEO) 松本恭攝(まつもと・やすかね)氏は「コーポレートIT領域の『不』を実感。問題を解決するビジネスを構想した」ことから、ジョーシスの提供に至ったと説明する。
「アナログな業務が多く自動化が進んでいない」
ジョーシスは従業員入社時のデバイス調達からキッティング(業務内容に合わせた設定)、SaaSアカウントの作成を手始めに、在籍中はデバイスとSaaSの棚卸し、ヘルプデスク対応、デバイスとSaaSの割り付けや権限変更。そして退社時はデバイス返却や管理、SaaSアカウントのワンクリック削除といったIT部門が担ってきた雑務をクラウドで一括して実行できる。
同社は印刷の「ラクスル」や物流の「ハコベル」、運用型テレビCMの「ノバセル」を提供してきたが、今回のジョーシスが第4弾のサービスになる。ラクスルは、コロナ禍で大きく売り上げが低下し、2020年の2月時点と5月時点を比較して約40%の減少に至った。同社も他企業と同様にリモートワークを実施し、コストダウンの一環として「人件費ではなく変動費に着手」(松本氏)
マーケティングコストは約10分の1、開発業務委託費は約3分の1と販売促進管理費を約50%削減したが、IT部門の業務委託費は15%減にとどまった。「リモートワークの実現にはPCのセットアップや物理的な故障への対応が必要だったが、アナログな業務が多く自動化が進んでいない」(松本氏)との理由からジョーシスの展開を開始した。
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ラクスルが6月30日から3日間実施した調査(有効回答600件)によれば、IT部門が本来注力すべきは「企業IT戦略の全体像デザイン」「デジタルセキュリティ対策・研修」「情報システム人材の採用・育成」が上位に並ぶが、「実施できている」と回答したのは49.4%(「できている」9.3%、「どちらかというとできている」40.1%)にとどまった。
その理由としては「業務量の多さ(25%)」「変則的・突発的な対応(18.6%)」などが上がり、約50%(無管理8.3%、スプレッドシートで管理38.8%)がデバイス管理を実施していない。SaaSの契約管理状況も50.1%が把握しておらず、運用コストに至っては58.5%が漠然と使い続けている状況がつまびらかになった。
このように漫然としたデバイスやSaaSの運用状況を明確化し、IT部門の負担軽減を目指すためにラクシスはジョーシスの提供を開始した。
2023年8月31日まで従業員50人以下の企業は無料で使用可能なジョーシスは、その6割をインドで開発している。また、デバイス調達などは同サービスで協業するTooが担う。Too 代表取締役社長 石井剛太氏は「(現在のIT部門は)より経営に近いポジションで動くことが求められている。生産性の高い環境を構築するため」に協業を選択したと説明した。
現時点でジョーシスは約40のSaaSと連携し、年度内に100以上のSaaSに対応することを予定している。また、SaaS管理についてはAPI未対応のSaaSやオンプレのシステムも管理する。デバイス管理はジョーシス経由以外で購入したデバイスやリース品にも対応。CSVで登録することで管理可能としている。
ラクスルの松本氏は「6月から十数社で(試験運用を)行った。(とある企業はSaaS)アカウント発行業務が3分の1に軽減している。2021年中に50件の契約」をビジネス目標に掲げた。
(左から)ラクスル 代表取締役社長CEO 松本恭攝氏、Too 代表取締役社長 石井剛太氏