ガートナージャパンは2月27日、2023年の日本のエンタープライズIT総支出額が、2022年から4.7%増の28兆5344億円に達するとの見通しを発表した。産業別では銀行/投資サービスの成長率が最も高く、小売がそれに続くと見込まれている。2022~2026年までは年平均4.6%で成長し、2025年には30兆円超となると予測する。
プリンシパル リサーチャーの成澤理香氏は、「2022年の日本のエンタープライズIT全体の支出額は、2021年から5.2%増加したが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の長期化や物価や為替変動などの影響もあり、産業別で見ると業績の明暗が分かれた。2023年も産業による成長率の差はあるものの、全産業でプラス成長を見込んでいる。製品・サービスの価格高騰がIT支出を押し上げている側面はあるものの、デジタル化やクラウドファーストへの取り組み、リモートワークを含む業務変革への意欲、経済安全保障に対する中長期的な強化といったトレンドが引き続きIT投資を促進する見通し」だと語る。
産業別で見ると、2022年に唯一のマイナス成長となった教育(11.5%減)は、2023年にプラス成長(1.1%増)に転じると見込まれている。2023年は、12のうち6つの産業別セグメントで2022年よりも高い成長が見込まれる。2022年に最も成長率が高かった銀行/投資サービス(7.9%増)は、2023年も6.8%増と最も高い成長が予想されている。小売の6.0%増、政府官公庁/地方自治体の5.3%増がそれに続く。
日本の産業別エンタプライズIT支出予測(単位:億円)
2022年は、「GIGAスクール構想」関連支出の反動減により教育が11.5%と大幅に減少したが、教育を除く全ての産業ではプラス成長だった。世界的な景気後退やインフレの影響により、一部の企業ではIT支出に慎重な姿勢も見られたが、その一方で、COVID-19感染対策に伴う行動制限が解除されたことで、2022年後半にかけてはこれまで業績が低迷していた小売や運輸など、幅広い業界で投資回復の兆しが見られた。
ガートナーでは、製品やIT人材の不足、円安による価格上昇の影響はあるものの、デジタル化への対応やリモートワークを含むワークプレース強化など、優先すべき課題は多く、製品納入の遅延により値引きが効きにくい状況下であってもプロジェクトを先送りできない企業が多かったことも支出を押し上げる要因となったとしている。
2023年は、全ての対象産業でIT支出がプラスとなると見通す。インフレや金利の変動、サプライチェーン(供給網)の制約、国際紛争、COVID-19の長期化など、経済的混乱が続くことが予想されるとしつつも、デジタル化関連投資を最優先事項の一つと位置付ける企業は依然として多く、ガートナーではIT支出の全体的なレベルに大きな影響はないと見ている。
銀行/投資サービスでは、2023年も店舗の統廃合とともにデジタルシフトの加速が見込まれる一方で、俊敏性(アジリティー)の強化を背景にシステムのモダナイゼーション(近代化)への取り組みが本格化する見通しという。小売は物価上昇など経済的な逆風が予想されるものの、人件費高騰に伴う店内オペレーション強化とデジタルチャネルにおける顧客体験(CX)の強化が優先課題となっていることに加え、経済活動再開に伴う反動増もあり、成長率では対象産業中2位となる見通し。
2023年には運輸の投資回復ペースが加速すると期待されており、旅客での投資再開に加え、2024年4月から適用される時間外労働の上限規制に伴う生産性向上などを背景に、産業別の成長率では2022年の7位から2023年には4位に上昇すると予測する。
成澤氏は「COVID-19感染拡大からの企業活動の再開がやや遅れた日本企業において、2022年は多くの産業で投資回復の時期となったが、2023年も経済的な逆風が引き続きIT投資に影響を及ぼすことが予想される。ガートナーの調査では、IT投資増加の傾向は継続しているものの、こうした不確実性の高まりにより、一部の企業では、長期的な視点での戦略投資より短期的に効果の出やすいコスト削減などの投資に目が向いていることが明らかになっている。一方で、デジタルトランスフォーメーション(DX)を競争優位の源泉と捉え、投資を継続する企業も存在しており、今後も二極化が進むことが予想される」と話す。
「短期的に自社の経営環境に応じて優先順位を見直すことは間違いではないものの、中長期的に遅れを取らないため、先送りできる課題と持続的に対応すべき課題(デジタル人材の育成やアジリティーを高めるIT基盤の構築など)の違いを見極め、将来見込まれる価値観の変化に向けて準備を怠らないことが肝要。特にデジタル人材の育成については持続的な課題として優先的に検討すべきであり、例えば、先進企業では俊敏性を高めるため、現場に近い人材も含め、その育成に重点を置いている。こうした取り組みは一朝一夕では追いつけないため、将来的に格差が広がる可能性がある点を認識すべきだ」(同氏)