本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、Dell Technologies グローバルシアターセールス部門&Dell Tech select プレジデントのJohn Byrne氏と、Qlik Technologies CPOのJames Fisher氏の発言を紹介する。
「さまざまな利用形態に応じた『適切なクラウド環境』の提供に注力していきたい」
(Dell Technologies グローバルシアターセールス部門&Dell Tech select プレジデントのJohn Byrne氏)
Dell Technologies グローバルシアターセールス部門&Dell Tech select プレジデントのJohn Byrne氏
デル・テクノロジーズは先頃、2月にスタートした同社の2024会計年度(2024年1月期)に合わせて現職に就任したJohn Byrne(ジョン・バーン)氏など米国本社の幹部が来日したのを機に記者会見を開いた。Byrne氏の冒頭の発言はその会見で、「Dellの次なる成長の弾は何か」と聞いた筆者の質問に答えたものである。
会見の内容は速報記事をご覧いただくとして、ここでは冒頭の発言に注目したい。
その前提として、Byrne氏は会見で、Dellの事業戦略として「コア」と「成長領域」に分けた形の図1を示し、エッジ、5G、データ管理、AI/機械学習、セキュリティ、クラウドを成長領域として挙げた。その上で、「コアビジネスは継続的な成長を図る一方、成長領域はさらなる進展を目指す」とし、「お客さまのさまざまなニーズにきめ細かく対応することで、お客さまからしっかりと信頼されるアドバイザーになっていきたい」と強調した。事業戦略の説明のくだりで「お客さまから信頼されるアドバイザーに」という発言が出てきたところに、グローバルセールスのトップとしての姿勢がにじみ出ていたと感じた。
図1:Dellの事業戦略(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)
Byrne氏は会見で、業績をはじめとしてさまざまな数字から見たDellの堅調なビジネスについて強調していたが、筆者が気になったのは直近の売上高の伸びに勢いがないことだ。2023会計年度(2023年1月期)の売上高は1023億ドルと過去最高を記録したものの、前期比では1%増にとどまった。また、直近の第4四半期(2022年11月−2023年1月)の売上高では前期比11%減と落ち込んだ。
2022年後半から景気後退がささやかれるようになり、世界経済も不透明感が増してきた中で、IT大手の業績は軒並み勢いをなくす傾向にある。その意味ではDellもその1社と見て取れるが、筆者はこの動きを「成長の踊り場」と捉えて、会見の質疑応答で「Dellの直近の売上高の伸びを見ると、成長の踊り場に入ったのではないか。次なる成長の弾は何か。最も注力する事業分野はどこか。成長領域の説明もあったが、総花的で同業他社が言っている内容と変わらないので、改めてお聞きしたい」と、あえて少しネガティブなトーンで問いかけてみた。すると、Byrne氏は次のように答えた。
「売上高の伸びについては、サーバーやストレージなどのインフラ関連事業については好調に推移したが、PCなどのクライアント関連事業が減少した。ただ、この減少はコロナ禍で旺盛だったPCの需要がひと段落した反動で一時的なものだと見ている。そうしたインフラもクライアントも含めて、当社の次なる成長へ向けて最も注力する事業分野を挙げるならば、お客さまのさまざまな利用形態に応じた『適切なクラウド環境』をきめ細かく提供していくことだ。Dellの総合力をもって、お客さまの要望にしっかりとお応えしていきたい」
「適切なクラウド環境」について、Byrne氏は「Cloud Done Right」と表現していた。つまりは、「あらゆるIT環境に対応した最適な利用形態」とのイメージか。それを「Dellの総合力をもって」実現すると。これが質問の答えだと受け取った(写真1)。
写真1:記者会見の様子。左から、Byrne氏、Dell Technologies アジア太平洋・日本(APJ)地区 プレジデントのPeter Marrs(ピーター・マース)氏、デル・テクノロジーズ 代表取締役社長の大塚俊彦氏