「プロセッサメーカーの歩む道」第1回目で取り上げたインテルの競合として常に名前が登場する企業、それがAdvanced Micro Devicesだ(AMD、日本法人は日本AMD)。同社は、主にデスクトップやモバイルPCに向けたプロセッサを提供していたが、2003年4月にx86サーバ向けの64ビットプロセッサ「Opteron」を発表して以来、エンタープライズ市場でもプレゼンスが高まっている。
Mercury Researchの調査によると、2005年第4四半期に出荷されたプロセッサにおいてAMDのシェアは21.4%だ。同社が20%以上のシェアを確保したのは2001年以来で、サーバ市場という新たな分野でOpteronのシェアを伸ばしたことが全体のシェアを引き上げた大きな要因だとされている。70%以上のシェアを握るインテルには及ばないものの、AMDは2005年第4四半期に、デスクトップ、モバイル、x86サーバ市場のすべてにおいてシェアを伸ばしている。
パフォーマンス向上につながる独自技術
AMDの強みは何なのか。それは、「パフォーマンスの向上につながる独自の技術を採用しているところだ」と、日本AMD マイクロプロセッサ ソリューション本部 本部長の多田和之氏は話す。その独自技術とは、「ダイレクトコネクト・アーキテクチャ」だ(下図参照)。
ダイレクトコネクト・アーキテクチャでは、DRAMメモリコントローラがCPUに内蔵されている。つまり、「メモリとCPU間にバスが存在せず、チップセットを介さないため、通信のボトルネックを解消することができる」と、日本AMD マイクロプロセッサ ソリューション本部 マーケティング部 デスクトップ/モバイル プロダクトマネージャーの土居憲太郎氏は説明する。
また、同アーキテクチャには、「HyperTransport」という技術が採用されている。これは、メモリとCPUをつなぐ部分の接続方法だ。HyperTransportでは、プロセッサ間やI/Oサブシステム間、チップセットなどの接続が双方向で行われるため、接続の帯域幅が倍増する。このため、「クロック数が同じでも高いパフォーマンスが期待できる」(土居氏)という。こうしたアーキテクチャがすべてのプロセッサに採用されており、パフォーマンスの向上に貢献している。
デュアルコア化、64ビット化を加速
またAMDでは、2005年にマルチコアのプロセッサを製品化している。これは、同社が2003年にOpteronを開発した際、将来的にマルチコア時代が到来することを見越してすでにアーキテクチャ化されていたものだ。
AMDのデュアルコアアーキテクチャについて、次のように説明する。「競合製品は、コアを2つ並べて1つのパッケージとしているが、メモリとコアのアクセスにバスを介しており、1つのコアがメモリにアクセスしている間、バスがそのコアに占拠されてしまう。ところがAMDではバスを持たず、コアに付随するシステムリクエストインターフェイス(SRI、図のオレンジ色部分)でリクエストの優先順位を管理、調整する。また、交換機の役目を果たすクロスバースイッチ(図の赤色部分)で空きのあるコアを探し出し、処理を振り分けることで、どちらかのコアのアイドル時間を削減する。このように複数のコアが複数の処理を同時にこなすことで、高いパフォーマンスが実現できる」(土居氏)
このデュアルコアアーキテクチャは、シングルコアの製品ですでに採用されていた。そのためAMDでは、コアを増やすだけでデュアルコアにスムーズに移行することができた。すでに同社は、サーバ用のOpteronをはじめ、デスクトップ用のAthlon 64 X2およびAthlon 64 FXなどでデュアルコア製品を発表している。「このアーキテクチャは、4コアまで対応が可能だ」と多田氏は説明する。
すでに発表されたサーバ用、デスクトップ用のデュアルコア製品に加え、AMDではモバイル向けのTurionプロセッサにおいても、2006年上半期にはデュアルコア化を予定している。つまり、エントリーモデルのSempronプロセッサを除くすべての製品がデュアルコアで提供されることになる。
またAMDでは、製品の64ビット化にも注力している。現時点でSempron以外のプロセッサはすべて64ビット対応となっているが、2006年上半期にはSempronも64ビットに対応する予定だ。同時期に、すべての製品においてソケットが変更されると共に、メモリがDDR2対応となる。