富士通は11月22日、サーバやストレージなどを仮想化、自動化してユーザー企業専用にプライベートクラウドをサービスとしてワンストップで提供する「プライベートクラウドサービス」の提供を開始した。プライベートクラウド導入の企画設計から、構築、運用保守、撤去廃棄までのライフサイクル全体を受託するアウトソーシングサービスになる。価格は個別見積もりになる。
今回のプライベートクラウドサービスでは、構築前の調査企画段階でまず業務を仕分けして現状のシステムを可視化する。その上で業務やアプリケーション、処理、データなどの特性を見極めてクラウド化の方針を立てる。この段階ではプライベートだけでなくパブリック、パブリックとの混合であるハイブリッドクラウドの活用も視野に入れて、方針を立てる。
設計構築の段階では、富士通独自のプライベートクラウド構成モデルや設計構築のテンプレートを活用するほか、あらかじめ標準化されたシステム基盤や専門要員を活用することで短期導入が可能としている。テンプレートには富士通がこれまで蓄積してきた実績に基づくノウハウが盛り込まれている。
構築後の運用段階では、標準テンプレートを活用してプライベートクラウド特有の運用を実施するとしている。標準テンプレートには166の運用作業項目をチェックするという富士通の運用保守総合モデルをベースに、仮想マシン管理などクラウド固有の運用作業項目を加えて、システムの安定稼働、信頼性を確保するという。今回のプライベートクラウドサービスでは、プライベートクラウド環境に対する各種のサービスをセットにしてオンデマンドで一括提供するというサービスモデルをオプションで提供するとしている。このオプションサービスを活用することで、初期コストの平準化や運用コストの可視化、グループ会社へのガバナンス強化などが可能になると説明している。
今回のプライベートクラウドサービスの提供体制として調査企画にフィールドSEや営業が2万5000人、設計構築ではクラウドアーキテクト700人が組まれている。運用は、富士通と富士通エフサスのサービスマネージャやLCMサービスセンターエンジニア、オンサイトサービスエンジニアあわせて8800人が担当する。
富士通はIaaS「オンデマンド仮想システムサービス」やSaaS、PaaSを提供しており、クラウドの商談は2010年上期で2400件に上るという。「そのうち20%がプライベートクラウド」(常務理事サービスビジネス本部長の阿部孝明氏)で、「プライベートクラウドの商談数は2010年上期で450件あり、これは前年と比較して2倍以上」になるとしている。その中で「運用サービスを組み込んだものが全体の3割を占めている」(阿部氏)。
同社のサポートセンターに寄せられるプライベートクラウドの問い合わせ状況を見ると、「“クラウド固有の課題”が明確になってきている」(阿部氏)と説明する。クラウド固有の課題は「運用管理」と「性能」に大別できるという。運用管理面では「障害発生時の切り分けに時間がかかる」「バックアップに高い負荷がかかる」、性能面では「アクセス集中でネットワークが遅くなる」「仮想マシンの性能が期待通りに出ない」といった声が寄せられているという。
プライベートクラウドは、企業の情報システムの課題を解決するものとして大きな注目を浴びている。たとえば業務や部門ごとに構築運用されてしまう、いわゆるサイロ型システム、企業全体で情報システムを効率的に活用するグループガバナンスの強化などの課題だ。
だが、プライベートクラウドを実際に導入するには「自社にクラウド構築、移行ノウハウが不在」「クラウド固有の複雑な運用が不安」「過剰投資リスクを抑止したい」という別の課題が存在することが見えてきたと阿部氏は説明する。富士通は、プライベートクラウドサービスについて今後5年間で導入企業1000社、受注額3000億円を目指すとしている。