「企業は海外との競争に巻き込まれていることを認識すべきだ。新興国が成長し、パワーバランスにも変化が起こっている」--ガートナー リサーチ バイス プレジデントの松原榮一氏は、11月28日より都内にて開催されている「Gartner Symposium/ITxpo 2007」の基調講演にて、開口一番こう警告した。
松原氏は、企業間での二極化が進んでいることを指摘する。グローバル化が進んでいる企業は成長する一方で、国内的な視点しか持たない企業は収益力を失っているというのだ。そして、利益率の高い企業と低い企業のIT管理体制を比較した結果から、「業績のいい企業は経営陣がITの重要性を理解しており、ITの効果を把握する努力をしている。何より差が出たのは、業績の悪い企業はITの投資対効果(ROI)が把握できている企業が2%しかなかった点だ」と指摘する。
ここで、同じく基調講演の壇上に立ったガートナー リサーチ バイス プレジデントの亦賀忠明氏が、「日本と海外では、テクノロジの運用スケールや構想力、実行力に大きなギャップがある」と述べ、Googleと中国工商銀行(ICBC)の例を挙げた。
まずは、すでに100億ドルを生み出す企業となり、2002年から206年の5年間で24倍の成長を遂げたGoogleだ。亦賀氏は、ガートナーの試算によるとGoogleの運用しているサーバの台数が100万台を超えているだろうとし、「日本で年間に出荷されるサーバの台数は約60万台。Googleではそれを大きく上回る数のサーバを運用し、膨大なコア数のプロセッサ能力を仮想化技術で管理している」と、その規模の大きさを指摘した。「まさに地球規模のサービスだ」(亦賀氏)
Googleは地球上にあるすべての情報を扱うと宣言しているが、それをテクノロジによって実現しようとしている。亦賀氏は、「すべての企業がGoogleになれるわけではないが、テクノロジを駆使して地球規模で戦う企業がいることを認識してほしい」と述べた。
一方のICBCは、個人口座数が1億7000万という巨大銀行だ。日本の郵便貯金の口座数が1億2000万、三菱東京UFJ銀行の口座数が4000万であることを考えると、規模の大きさは一目りょう然だが、「それでもICBCは満足しておらず、自社の強みを懸命にアピールしている」と亦賀氏。
そのアピールの方法もユニークだ。ICBCでは、サイト上に自社のITシステムのすばらしさを説明するページを設け、ITユーザーであるにも関わらずITへの研究開発を怠らないことを宣言している。その結果、数多くのIT関連特許も取得している。これは、「ビジネスを成長させるためにITを武器として実装しているいい例だ。投資家に対する説明責任も果たし、ブランド向上にもつながる」と亦賀氏は話す。
亦賀氏によると、ICBCはIBMのメインフレームを利用しているという。IBMのメインフレームの処理能力は2万MIPS、つまり1秒間に200億命令の処理が可能だ。一方、国産の富士通のメインフレームの処理能力は3000MIPS。これは、「IBMのメインフレームほどの処理能力が日本では必要ないからだ」と亦賀氏。
しかし、IBMのメインフレームの世界シェアは80%で、「世界規模のトランザクションを実行しようとすれば、IBMのメインフレームが必要となる」と亦賀氏は述べ、「メインフレームは枯れた技術だと言われるが、日本のユーザーも再度メインフレームに対する認識を見なおし、ベンダー側もIBMとのギャップを認識して対抗戦略を打ち出すべきだ」と主張した。
「ビジネスに必要なのは、人と情報とテクノロジだという考えがあるが、地球規模でのビジネスを考えるには、そのテクノロジは単なるテクノロジではなく、『ウルトラテクノロジ』でなくてはならない」と亦賀氏。同氏は、日本のITリーダーへの提言として、「海外とのギャップを認識し、グローバルスケールでビジネスを行うこと。競争意識を高め、新しいテクノロジのパワーでビジネスを加速させるべきだ」とした。